アラサー女子の惑いを赤裸々に
《公開年》2021《制作国》ノルウェー他
《あらすじ》まもなく30歳を迎えるユリヤ(レナーテ・レインスヴェ)はかつて成績優秀なだけで医学部に進学し、自分の興味は肉体でなく魂だと気づいて心理学に転向し、自分は視覚の人間だと閃いて写真家を志望する。そして、書店のバイトと写真の勉強を始めたユリヤは、コミック作家のアクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)と出会って恋に落ち同棲を始めた。
ところが、売れっ子作家で10歳以上年上の彼との間に埋められない溝と孤独感を感じ始めたユリヤは、偶然知り合った同世代の男アイヴィン(ハーバート・ノードラム)と意気投合し、気になり始める。更にユリヤが働く書店で二人は再会し、彼はオープンベーカリーで働いていて、その店に誘われたユリヤはときめきと罪の意識の狭間で思い悩む。
その翌朝、ユリヤが電気のスイッチを押した瞬間、自分以外の全ての時が止まり、彼女は街中を走り抜けてアイヴィンの店へと向かった。一夜を彼と過ごし帰宅したユリヤがスイッチに触れると時間が動き始め、彼女はアクセルに別れ話を切り出した。
アイヴィンにはサーミ人の血を引く恋人がいたが、環境保護活動に傾倒する彼女に疲れ始めた頃にユリヤと出会ったのだった。ユリヤはアイヴィンと暮らし始め、彼といると無理しない自然体でいられると幸せを実感していた。ところがある日、ユリヤが働く書店にアクセルの兄がやってきて、彼からアクセルがすい臓がんで余命僅かと聞いて衝撃を受ける。
ユリヤは体調の変化を感じて妊娠検査薬を使うが、その結果は陽性だった。しかしそのことをアイヴィンに告げられないまま、ユリヤはアクセルの病院に向かった。明日が手術だという彼は「未来がなくなって過去が大切になった」「君は生涯の恋人。君は最高だ」と言った。ユリヤは妊娠を打ち明け、迷っていることを話した。
外出許可をもらったアクセルはかつて住んでいたアパートにユリヤを案内し「ここで君と幸せに生きたい」と本音を吐露するが、後日、アクセルの容態が急変し明日まで持たないと連絡が入る。ユリヤはただ泣くことしかできなかった。そして流産してしまう。
時は流れ、ユリヤはスチールカメラマンの職に就き、映画撮影の現場にいた。仕事を終え帰ろうとする女優を迎えに来たのは、赤ちゃんを連れたアイヴィンだった。自室に帰ったユリヤは、パソコンに向かって淡々と写真のチェックをしている。
《感想》自分には何か才能があるはずなのに何をしたいのか分からず、生き方が定まらないまま30歳を迎える。自己中で移り気で、他人の愛や大切なものが見えず、迷走するアイデンティティに悩みながら結局他人に幸せを求めている。こんなアラサー女性は結構いそうだし、男だって似たようなものだ。
とても共感できそうにないキャラなのだが、この世代にとっては結婚、仕事、親子関係等々、人生の分岐点にいる彼女らだけに分かる痛みとか刺さる部分があるのかも知れない。鬱屈したモヤモヤを抱えた現代女性の一面をリアルに描いている気はする。
そして何か結論を出す訳でもない漠としたエンディングが印象に残った。人生は選択の連続で、振り返ると失敗や後悔の繰り返しだが、それでも日々暮らしてそれぞれに行き着く。ラスト、それなりに落ち着いたヒロインにはどこか吹っ切れた感がうかがえた。
とりあえず自分が見え始めて一人歩きを始め、彼女が拠り所を見つけたのか諦観であるのかは分からないが、一歩成長した姿ではあるのだろう。何も語ってはいないのだが、むしろ漠としたところがメッセージかと思う。
一途に疾走するヒロインの、思いに任せたその行動は刺激的で一見奔放だが、底に潜む思いは意外に繊細で深いような気がした。