笑って泣ける青春と家族のドラマ
《公開年》2021《制作国》韓国
《あらすじ》ジュンギョン(パク・ジョンミン)の住んでいる村には道路がなく、学校に行くには唯一繋がっている線路を駅まで歩かなければならなかった。途中に鉄橋やトンネルがあって、列車の接近に気づかず事故で亡くなった人もいた。
ジュンギョンの父テユン(イ・ソンミン)は機関士でほとんど家にいることがなく、母は既に他界し、面倒見がいい姉ボギョン(イ・スギョン)と二人で仲良く暮らしていた。ジュンギョンはかねてより大統領宛てに駅を作って欲しいとの手紙を送っている。
高校に入学したジュンギョンは、少し風変りだが数学に天才的な才能を発揮し、クラスメイトで国会議員の娘であるラヒ(イム・ユナ)が興味を持ち、ジュンギョンに絡んできて仲良くなるが、それ以上には発展しない。ラヒは、ジュンギョンの駅を作りたいという夢を手伝おうと、大統領への接近策を練るがうまくいかない。
ある日、ラヒはソウルに転校すると話し、ジュンギョンにソウルの科学高校に行かないかと誘う。ジュンギョンは姉のことが気がかりで乗り気になれなかった。そんな折、村人の安全を思ってジュンギョンがトンネル入り口に設置した手作り信号機に不具合が生じて死亡事故が起き、ジュンギョンは幼い頃を思い出した。
それはジュンギョンが小四の頃で、数学大会で得たトロフィーを持ち鉄橋の避難スペースで列車を避けた時、うっかりトロフィーを落としそうになって、それを拾おうとした姉ボギョンが落下して亡くなっていたのだった。それ以降ジュンギョンと暮らしていたのはゴーストとなったボギョンだった。
やがて国から駅を作る許可が下りて、村人の協力で駅舎が完成するが、規則により停車させることはできなかった。
教師の勧めによってジュンギョンはアメリカ留学受験の機会を得るが、本人は諦めの境地にあって、どうしても受けさせたい教師の熱意に押されたテユンは、規定違反である新駅に列車を停め、ジュンギョンを連れてソウルの試験会場に向かった。遅刻はしたものの試験を受けて、見事に合格し留学の権利を手に入れた。
父は息子に初めて心を開いて話した。仕事一筋だった父は、母がジュンギョンを出産する際も放っておいて母親を死なせたこと、ジュンギョンの表彰式にも出られず姉に任せたこと、姉が亡くなった時の運転士が父だったことを話し、申し訳なさからジュンギョンに顔向けできなかったと告白した。「だから、お前ももう罪の意識を持つな」と。
皆に見送られて列車に乗り、列車内でボギョンと別れ、アメリカに立つ空港ではラヒに見送られてエンド。
《感想》何とも不思議な映画。実話ベースといいながら、実話そっちのけで自由奔放の離れ技を見せる。期待を見事に裏切り、期待以上の映画だった。
「皆で駅を作った苦労話」のイメージを持って観始めたがそうではなくて、実は不便だからという理由以上に、作ろうとする動機というべき深い背景と家族の物語があった。
前半は青春ラブコメ、後半はファンタジー含みの家族ドラマで、前半薄々感じた違和感が、後半の泣きへの伏線だったという展開。作りはごった煮風だが、見事に仕組まれていて、素直に涙ぐむ人と、お涙頂戴、狙いすぎに鼻白む人とに分かれそうだ。
ベタな人情ものともいえるが、父と息子が互いにうまく伝えられない思いを吐露するシーンのイ・ソンミンが切なくて、涙腺決壊とまではいかないがジンワリと染みた。
そして主人公である天才的変人の高校生を取り巻くキャラがいい。父はどことなく『鉄道員(ぽっぽや)』の高倉健を思わせる“不器用な男”の朴訥さで、姉は優しくて賢い理想的なゴーストだし、少女時代のユナが演じるお嬢様女子高生には無理矢理感があって、それが却って新鮮だった。
青春、家族、ファンタジーのバランスが良くて、泣けて笑える清々しいエンタメ作品である。