『パラレル・マザーズ』ペドロ・アルモドバル

内戦の過去と現在、繋がっている家族のドラマ

パラレル・マザーズ

《公開年》2021《制作国》スペイン
《あらすじ》2016年冬のマドリード。写真家のジャニス(ペネロペ・クルス)は、撮影中に知り合った法人類学者アルトゥロ(イスラエル・エレハルデ)と親しくなり、スペイン内戦中に故郷で殺害され集団墓地に埋められた曾祖父たちの遺骨の発掘を相談した。やがて二人は親密な仲になり、ジャニスはアルトゥロの子を妊娠するが、彼にはガンを患っている妻がいて、シングルマザーになることを決意する。
ジャニスは産科医院で17歳のアナ(ミレナ・スミット)と同室になり、二人は同じ日に女の子を出産した。ジャニスは娘をセシリアと名付け、退院後アルトゥロに見せるが、彼はどちらにも似ていないとDNA鑑定を勧めた。ジャニスは怒るが不安にもなり、DNA鑑定をすると母娘関係がないという結果が出て、誰にも打ち明けられずに育てる。
数か月後、ジャニスは自宅近くのカフェで働いているアナと再会する。アナは、母親のテレサが女優業を優先して折り合いが悪いことを理由に、実家を出て生活しているのだという。ジャニスの自宅に招かれたアナは、自分の子が突然死してしまったことを彼女に明かした。アナの子の写真を見たジャニスは、病院で自分の子とアナの子が取り違えられたことを確信した。
ジャニスはアナにセシリアのベビーシッターとして働かないかと提案し、同居して働くようになる。ジャニスはこっそりアナとセシリアのDNA鑑定をするが、結果は二人の母娘関係を確定させるものだった。その後、アナは同級生3人によるレイプで妊娠し、誰が父親なのかは不明だと打ち明けた。
アルトゥロがジャニスの元を訪れ、財団が遺骨の発掘事業を承認したことと、妻が回復したため離婚を決意したと話した。集団墓地に眠る曾祖父をきちんとした墓に埋葬できると喜び二人は祝杯を挙げるが、ジャニスに恋心を抱くアナは二人の関係に嫉妬を募らせる。
やがて、ジャニスからアナに真実を話す日が訪れる。セシリアの母はジャニスではなくてアナだということを‥‥。アナは怒りセシリアを連れて家から出て行った。落ち込んだジャニスはアルトゥロにその事実を打ち明け慰められる。翌朝、心を静めたアナからジャニスを気遣い和解を求める電話が入った。
数か月後、ジャニスはアルトゥロと故郷の村を訪れ、遺族から内戦当時の証言を収集し、遺骨発掘の準備にかかった。ジャニスは発掘現場に来たアナに、妊娠3か月であると明かした。遺骨は無事に発見され、ジャニスや村人たちは並ぶ人骨に息をのみ、亡くなった人々を悼んだ。

《感想》望まぬ妊娠をした二人の女性が、出産病院での乳児取り違えによって思いがけない事態に遭遇し、それぞれに苦悩する。育てた子が我が子でないと知り、更に我が子は既に亡くなったと知って、母性の拠り所を求めて逡巡した末に、実の母に渡すまでのジャニスの苦悩。そんな残酷な現実に直面したシングルマザーの葛藤、孤独、罪悪感など複雑な内面を、息苦しいまでに演じたペネロペ・クルスに圧倒される。
その一方でジャニスは、かつてスペイン内戦で惨殺され、故郷の村の集団墓地に埋められた曾祖父や村人たちの遺骨を掘り起こすというライフワークにも取り組んでいる。
ジャニスとアナのシングルマザーとしての人生もパラレルだが、シングルマザーと内戦という全く異なる二つのテーマもパラレルに展開する。どう繋がるのか戸惑ってしまった。
今までマイノリティ中心に様々なメロドラマを描いてきた同監督が、政治色を表に出すのは珍しいが、古希を過ぎての心境の変化と世界観の広がりのように思えた。そしてかつて独裁政権下を生きた傷を背負い、内戦で失った家族への思いを抱えた彼としては、民族紛争、内戦が絶えない今の世界情勢を看過できなかった。過去の内戦を断罪し、連帯の大切さを訴えたかったものと思う。
だからこそ、子どもの取り違えによる現在の不幸と、過去の内戦で経験した国家の不幸という、底に流れる遺恨や愛憎の“家族のドラマ”を重ねて描きたかったもの、そう解した。だが正直、その意図は十分に汲み取れていない。
重い内容だが軽やかな演出で、登場するのがみな自立した女性だったこともあって、後味は爽やかなものになっている。

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投稿者: むさじー

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