『三姉妹』イ・スンウォン

容赦ない露悪趣味で謳う人間賛歌

三姉妹

《公開年》2020《制作国》韓国
《あらすじ》韓国ソウルに暮らすマンソプ家の三姉妹。長女ヒスク(キム・ソニョン)、次女ミヨン(ムン・ソリ)、三女ミオク(チャン・ユンジュ)はそれぞれに家庭を持っている。
長女ヒスクは、別れた夫の借金を返しながら小さな花屋を営んでいるが、自らはガンを患い将来に絶望している。反抗期の一人娘ボミには疎まれ相手にされず手を焼いていて、密かに娘の幸せを願っているが、親としての対処に自信が持てない。
次女ミヨンは、大学教授の夫と一男一女の家庭で高級マンションに暮らすセレブ生活。熱心に教会に通い、聖歌隊の指導もする模範的な信徒でもある。ところが夫が聖歌隊女子メンバーのヒョジョンと不倫していることが発覚し、二人の仲を裂こうとしたミヨンはヒョジョンにケガを負わせてしまう。やがて夫との間には離婚話が浮上し、子どもにもきつく当たるようになり、安寧の日々は崩れていく。
三女ミオクは、劇作家としてスランプに陥り、自暴自棄になって昼夜問わず酒浸りの日々を送る。運送業の夫は優しいのだが、夫の連れ子のソンウンとは距離が縮まらず、母親にもなり切れず、学校の保護者面談に出向いても相手にされない。
そんな小心者、見栄っ張り、厄介者の三姉妹が、父親の誕生日を祝うために久しぶりに一堂に会する。ミオクには5歳の頃のおぼろげな記憶がある。夜中にミヨンと共に裸足で近くの食堂まで走った記憶だった。それは父親のDVで、今まで蓋をしていた幼少期の心の傷と向き合うことになる。実は姉妹にはジンソプという末弟がいて、父親のDVの対象になった長女ヒスクとジンソプは異母姉弟だった。虐待の惨状を見かねたミヨンとミオクが近くの食堂まで助けを求めた記憶だった。
ジンソプは大人になっても引きこもりでトラウマに苦しんでいる。そのジンソプが祝いの席に乱入し、父親にオシッコをかけるという奇行に出て、会場は混乱に陥る。ミヨンとミオクの怒りの視線は父親に注がれ「謝れ!」と迫り、今は穏やかなクリスチャンになっている父親は、窓ガラスに頭を打ち付けて自らを罰した。ボミは母ヒスクのガンを暴露し、姉妹はじめ家族は衝撃を受けた。
三姉妹は入院したジンソプを見舞い、ヒスクは妹弟の励ましを受けてガンの治療に臨もうと決意する。三姉妹は車で海辺に出向いた。海辺の開放感と共に、三人も今までの呪縛から解放されたような、姉妹の絆を再確認したような熱い気持ちに満たされ、笑顔で記念写真を撮った。

《感想》家父長制の闇と虐待、虐待体験が招いたトラウマ、宗教への過度の依存、行き詰った末のアルコール中毒、夫婦関係と親子関係、ガンとの闘い、社会派映画としてのネタ満載である。また、登場するどうしようもない人たちの愚行は悲惨で痛々しいのだが、品性欠如の破天荒ぶり、容赦のない韓国映画が持つパワーはハンパなく、ヘビーだけれど面白い。
ドラマで描かれるのは、家族を繋ぐ絆と断ち切れない呪縛。
観終えた直後は、祝いの席で勃発した放尿事件のクライマックスから、明るさを取り戻すエンディングへの流れが安直で呆気なさすぎると思えた。問題は未解決だし、明日からもきつい現実は続く。どこに希望を見いだしているのかが見えず、モヤモヤを感じていた。
しばらくして、変わったのは互いの関係性なのだと気づいた。呪縛を断ち切った解放感と、姉妹の絆を取り戻した熱い思い。元凶だった父親は宗教に目覚めて改心したし、誰もが変化の兆しを感じ始めている。三人で支え合えば何とか乗り切っていけそうな希望が見えて‥‥。吹っ切れた三人に対して初めて共感らしきものが生まれた。
山積する問題は容易に解決できるものではなく、これが抗いようのない現実だと認識して、それを乗り越えるために思いを共有した三姉妹。重めの展開の割に軽めの結論という気もするが、前向きで現実的な人生賛歌、人間賛歌のようにも思えた。
主演の三女優がそれぞれにいい。映画に品性を求める向きにはお勧めしないが。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!