犯罪者の社会復帰を真摯に見据える
《公開年》2008《制作国》イギリス
《あらすじ》イギリスのマンチェスター。ソーシャルワーカーのテリー(ピーター・ミュラン)は、少年院に十余年収容されて出所したばかりの若者を引き取り、「過去の君は死んだ」と言い、ジャックという名で更生の道を歩むよう言い聞かせた。ジャック(アンドリュー・ガーフィールド)は、テリーが用意したアパートに住み、運送会社に勤務することになる。
ジャックの生活は順調にすべり出した。職場では良い相棒クリスに出会い、会社の事務員ミシェル(ケイティ・リオンズ)に恋をして交際が始まった。ジャックはそれを嬉しそうにテリーに報告し、それを喜ぶテリーの家には、離婚して以来疎遠だった息子が訪ねてきて一緒に暮らすことになる。
ある日、ジャックは配達中に崖から滑落した自動車事故を目撃し、運転席の親は亡くなっていたが、乗車していた少女を救助する。その美談を取材に新聞社が訪れて記事にされ、彼は自分の“素性”がバレないか心配した。事なきを得たが、恋人となったミシェルにも打ち明けられず、自責の念を抱く。
テリーの家では、息子は酒を飲んでは閉じこもっている日々、長い空白は埋められずにいた。
そんなある日、突然、恋人のミシェルと連絡がとれなくなる。会社からはクビを宣告され、相棒クリスからも非難される。ジャックの“素性”が割れてしまったのだ。家にはマスコミが押し寄せ、ジャックは彼宛ての手紙をポケットにしまって、何とか家から脱出した。※
〔回想〕ジャックの本名はエリック・ウィルソンといい、威圧的で息子に無関心な父親と、がんを患い引きこもっている母親を持ち、両親からの愛情を受けずに少年期を過ごし、学校ではイジメの対象だった。そんな彼にフィリップという友達が出来た。兄から性的虐待を受けていて粗暴な性格だが、エリックには唯一心の許せる相手だった。
ある日、フィリップが一人の少女にちょっかいを出し、逆に嫌味を言われたことに腹を立てナイフで脅すと、二人は更に感情的になりやがて少女は殺害された。側にいたエリックはフィリップに同調し少女殺害に加担した「少年A」になった。エリックとフィリップは少年院に収容され、フィリップは施設内で自殺したとされているが、実態は仲間のリンチに遭って、自殺を装って殺されたことが明かされる。
※ジャックの情報を漏らしたのはテリーの息子で、自分よりジャックを気遣う父親への嫉妬からだった。
ジャックは街を彷徨い、宛てもなく電車に乗って終着駅に着き、海の桟橋を歩いた。ポケットの手紙には、自動車事故で救った少女からのお礼の言葉が綴られていた。ジャックは妄想の中でミシェルと会話し、テリーとクリスに最後のメッセージを残し、意を決したかのように海に飛び込もうとして、エンド。
《感想》殺人事件の過去を背負いながら更生の道を歩もうとするジャックの現在と、少年エリックとしての過去を交錯させながら展開する。
社会の視線に怯えながら健気に慎ましく生きようとする若者、その繊細な表情を見ていると胸が痛くなる。その一方で周囲の人たちと同様に、犯罪者に対する批判的で冷めた気持ちが潜んでいることにも気づく。寛容な自分と、それを偽善と感じる不寛容な自分がいるが、人命の重さと被害者の気持ちを思うとどちらとも言えない。
映画の描き方はやや偏っていて、主人公に同情的な作りになっている印象を持った。加害者側の過去と心情は詳細に描きながら、少年が犯した犯罪のてん末、被害者側の心情には触れていない。
だからと言って主人公に一方的に肩入れしている訳ではなく、成長しても犯罪者の烙印が消せない若者が社会に出て生きる苦悩、容易には許してくれない社会との軋轢を客観的に淡々と描いている。また、罪を憎んで人を憎まずといった、過去にどんな罪を犯した人でも受け入れる寛容な社会を主張している訳でもない。
映画はあえて答えを出そうとせず、そのどうしようもなさを描き切っている。過去は消したくても消せないし、どんな理由があれ殺人を犯すことが、その後の人生に大きな影を落とすという現実を真摯に見据えている。むしろそこに誠実さを感じるし、明確なメッセージがないからこそ、観終えて深いため息が出た。そして後味の悪さこそがリアルな現実なのだと思えた。