『ベルイマン島にて』ミア・ハンセン=ラヴ

女性目線の私小説風「ある結婚の風景」

ベルイマン島にて

《公開年》2021《制作国》フランス他
《あらすじ》映画界の新進監督であるクリス(ヴィッキー・クリープス)と夫で有名監督のトニー(ティム・ロス)はスウェーデンのフォーレ島を訪れた。この地はイングマール・ベルイマン監督がロケをし、晩年を過ごした場所で、二人は映画の脚本執筆に打ち込むためにやって来た。ベルイマンゆかりの家に滞在し、それぞれに仕事を始める。
ベルイマン財団主催でトニーの作品上映会が開かれ夫婦して出席するが、クリスは途中で抜け出して町を散策し、一人の男性と知り合う。映画を学ぶ学生のハンプスで、彼の車でベルイマンの墓などを案内してもらう。そのためトニーと約束していた「ベルイマン・サファリ」というツアーをすっぽかし、彼は一人で参加した。ハンプスのことをクリスは魅力的な男性とトニーに話すが、トニーに嫉妬する様子はなかった。
トニーの仕事は順調に進んでいたが、クリスは筆が進まずトニーに助言を求めても彼はそれに応えようとしない。夫との間に溝を感じながらも、クリスは自身の初恋を投影した脚本を書き始めた。※
〔劇中劇〕主人公は28歳の女性映画監督エイミー(ミア・ワシコウスカ)で、友人の結婚式に出席するため訪れたフォーレ島で、かつての恋人ヨセフ(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)と再会し心を揺さぶられる。エイミーは結婚していて4歳の子どもがあり、ヨセフにはミシェルという恋人がいた。許される愛ではないが、二人の気持ちは高ぶって関係を持ってしまう。それ以上の進展を密かに期待するエイミーだったが、ヨセフは裏切りを悔いて黙って帰ってしまった。それを知ったエイミーは動揺し静かな哀しみに襲われ‥‥。
※脚本はそれから先に進まず結末をどうしようか、クリスは迷っていた。
そんな中、トニーにアメリカでの仕事が入り3日ほど島を離れることになる。一人島に残ったクリスは町の探索に出かけ、ベルイマンの自宅を見つけて中に入ると、そこにいたのはハンプスだった。再会を喜んだのも束の間、彼は祖父が死んだので島を離れると告げて、慌ただしく去って行った。
一人になったクリスが椅子に腰かけて眠り目覚めると、そこに現れたのはヨセフを演じている俳優のアンデルシュだった。やがて撮影クルーのパーティーが開かれそこにはエイミー役の女優ミアもいて「劇中劇」と現実が交錯する(夢か現実かは分からない)。
3日が経ち、トニーが幼い娘ジューンを連れてアメリカから戻って来た。クリスは歓喜の声を上げて娘を強く抱きしめるのだった。

《感想》ベルイマンの聖地であるフォーレ島は、打ち寄せる波と吹き抜ける風の美しい島だった。そこを訪れ映画製作の構想を練る映画監督夫婦によって、ベルイマンへのオマージュが語られ、聖地巡礼の興奮が伝えられる。やがて、新進女性監督クリスの脚本執筆中の物語が劇中劇として登場し、現実の中に虚構が入り込み、虚実ない交ぜになって映画は展開する。
クリスの思いを投影した分身が劇中劇のエイミーで、そのクリスはミア・ハンセン=ラヴ監督の私小説的な分身という三層構造になっているようだ。そして底流にあるのは、夫婦の機微と性の深淵を描いたベルイマン『ある結婚の風景』と思えるのだが、ベルイマン的雰囲気はなく軽めに描かれる。
この夫婦関係において夫が求めたのは、平穏な愛に満たされた静かな喜び、だから内なる変態性欲は秘めたまま。一方の妻は、過ぎたる平和に不満を持ちながら欲求不満は映画世界で解消し、浮気は踏みとどまっている。結局、何事も起こらず、運命に逆らうこともなく平穏な幸せに帰着する。
その間、それとなく性生活への不満を匂わせるクリスが描かれ、クリスは脳内妄想を分身であるエイミーに託して、彼女の欲望を掘り下げながら母親であり映画作家である自分を見つめ直していく。漠としたエンディングではあるが、シロクロつけ難い結末も往々にしてあるものだ。
やや通俗的な夫婦の機微という気はするが、劇中劇と現実の物語が繋がるという仕掛けが面白いし、風光明媚な観光気分も味わえる。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!