『夢みるように眠りたい』林海象 1986

映画愛が謎解きへと誘う幻想譚

夢みるように眠りたい

《あらすじ》昭和初期の東京。私立探偵の魚塚(佐野史郎)の元に、月島桜(深水藤子)と名乗る老女から、娘の桔梗(佳村萌)が誘拐されたので探して欲しいとの依頼がきた。早速助手の小林(大竹浩二)と共に捜査に入る。脅迫電話の録音テープを聞くと「将軍塔の見える花の中、星が舞う」がキーワードで、謎を解いて桔梗を取り返すことになる。将軍印は仁丹で仁丹塔、花は花やしき、星は人工衛星というアトラクションだった。
犯人の要求に応じて取引現場に身代金100万円を届けに行った魚塚は、ゴンドラの中に200万円要求のメッセージと地球ゴマを見つける。地球ゴマの意味を回転屋に聞くと「行商ゴマ、月島神社の縁日」の示唆を得た。
縁日に出向くと、地球ゴマの行商をする「Mパテー商会」なる三人の手品師風の男たちに出会い、彼らの後を追って暴行を受けた魚塚は誘拐犯のアジトへと連れ去られる。金を奪われたうえ「もう100万円持って次の場所へ行け」のメッセージ。手には「電気館」の文字が記されていた。
月島桜の使いでやってきた執事は、100万円と拳銃を魚塚に渡し、更なる捜査を要求した。電気館は浅草にある芝居小屋との情報で出向くと、そこには櫛屋があって店の老女の話では「活動写真館だったが、もうない」と土産に櫛をもらう。
かつてあった場所に行くと「電気館」の提灯がついた店舗風の家を見つける。玄関を開けると、手品、演芸、軽業が楽しめる見世物小屋で、やがて不思議な映画上映に遭遇する。それは大正時代に製作された未完のチャンバラ映画で『永遠の謎』。その完結編が弁士付きで上映されていて、連れ去られた姫を黒頭巾のヒーローが助けにいくのだが、黒頭巾の顔は魚塚その人だった。
ところが、敵を追いかけて拳銃を構えたところで、突如警察の手入れが入る。「日本初の女優出演映画は風紀を乱す」と撮影中止、上映中止になってしまう。魚塚らが仕方なく会場を出ると、そこはただの居酒屋だった。
次に魚塚らが向かったのは月島桜の家。月島桜は『永遠の謎』のヒロインを演じた女優で、死期が近いと知った彼女にとってただ一つの気がかりは、未完に終わった映画の結末だった。悪者に誘拐された姫を黒頭巾が救出するという結末を実現させたい、それを魚塚に託したのだった。
屋敷に入り部屋の扉を開けると、そこは『永遠の謎』完結編の撮影現場であり、上映会場であって、桔梗姫を演じる若い頃の彼女がいた。拳銃を構えた魚塚は監督の指示するままに発砲し、黒頭巾は姫を助けた。姫を助けて手を握る黒頭巾の姿が、横たわる月島桜に寄り添う魚塚の姿と重なり彼女に櫛を渡す。
月島桜は「夢をみるように眠ることにしよう」と魚塚に感謝しながら静かに息を引き取った。魚塚は桔梗(若き日の桜)を背負って屋敷を後にする。

《感想》死期が迫った往年の女優は、50年前に国策で撮影が中断された映画の最後のシーンが心残りで、その結末を完成させたいと私立探偵に託した。探偵は仕掛けられた謎を解きながら、黒頭巾となって姫を救出すべく‥‥。
かつての映画人が映画にかけた情熱と捨てきれない思いを、女優の執念という形で描き、時代に翻弄され国策で夢を奪われた悔しさ、苦しさを訴えかけてくる。
全編モノクロで、サイレントとトーキーを融合した独特の世界。加えて謎解きとファンタジーなので好き嫌いは分かれるところだが、単に荒唐無稽と片付けられないのは「嘘」に込められた思いに、仕掛人である女優の人生そのものが投影されているから、という気がする。
特にクライマックスでは、現実と映像世界の境目が徐々に薄らいで、姫を救い出す黒頭巾と探偵の姿が重なって、幻想的なエンディングを迎える。二つの世界が調和していく様は美しくて見事だ。
余談になるが、月島桜を演じた深水藤子は往年のスター女優。山中貞雄『丹下左膳余話百萬両の壺』で矢場の看板娘お久を演じていて、山中とは恋愛関係にあったが、山中は中国に出征し28歳で戦病死した。一旦引退した彼女が40年ぶりに林海象2作品にのみ出演したのは、本作の企画に賛同したのもあるが、映画に対する山中の無念を代弁し、戦争で失った全ての無念を訴えたかったからではないか。それを思うと胸に迫るものがある。
なお、協力に名を連ねているが、大林宣彦ファンには超お勧めである。

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投稿者: むさじー

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