ダメ親を捨て、子は冒険の旅に出る
《公開年》2020《制作国》アメリカ
《あらすじ》15歳の少女ビリー(ラナ・ロックウェル)と11歳の弟ニコ(ニコ・ロックウェル)はわずかな小遣い稼ぎをしながら、父アダム(ウィル・パットン)と慎ましく暮らしている。普段は子どもたちを愛情深く見守る優しい父なのだが、酒を飲むとトラブルばかり起こすので生活は楽でない。
クリスマスの日。ビリーはニコには玩具のマシンガンを、父にはスリッパをプレゼントし、父からウクレレを贈られて大喜びした。姉弟の母親イヴ(カリン・パーソンズ)は酒浸りのアダムに嫌気がさして家を出て、今はクラブを経営する男ボー(M・L・ジョゼファー)と付き合っている。母を招いた家族4人の食事会を計画して父子3人は店で待つが、イヴはボーと一緒に現れ、ボーとアダムの喧嘩が始まって早々にイヴは去った。
その夜、酒に酔って帰宅した父は、無理やりビリーを椅子に座らせると、ハサミでビリー自慢の髪を勢い任せに切り始めた。はずみでウクレレを壊され、切られながら涙ぐむビリーだった。すると泣いているビリーの傍に髪を短く刈ったニコが来て、「父さんはただ悲しいんだ」と慰めた。
しかし、アルコール依存に歯止めが効かなくなった父が強制入院させられ、ビリーとニコは母イヴとボーが暮らす海辺の別荘に身を寄せることになる。二人の新生活は遊び三昧で楽しいはずなのだが、父のいない寂しさを感じる日々。そんな中、近所に住む少年マリク(ジャバリ・ワトキンス)と親しくなった。彼もまた孤独を抱えた少年だった。
実はボーも暴力的な性格で、酒に酔うと三人に辛く当たるようになる。そしてある日、一緒に魚釣りに行ったニコがボーから性的虐待を受けたことを知り、ビリーはイヴに告発した。しかし、ボーに経済的に依存しているイヴは彼をかばい、告げ口したことを怒ったボーがイヴの留守中に二人を襲ってきた。
ニコはナイフで立ち向かうがボーはたじろがず、そこに駆け付けたマリクがボーの脚にナイフを突き立て、そのまま3人は逃走する。マリクの父がいるフロリダを目指して冒険の旅が始まった。
盗んだ車で飛ばしたり、野宿をしたり、留守の豪邸に忍び込んで騒いだり、やりたい放題楽しんだ。そしてキャンピングカーで生活をする老夫婦に出会い、温かい一夜のもてなしを受けた。
ところがその翌朝。夫婦が警察と話しているのを目撃したマリクは、裏切られたと思って外に飛び出し、背後から警官に撃たれてしまう。病院に搬送されたマリクは、一命は取り留めたものの記憶を失い、話もできなくなった。ビリーとニコは警察に保護され、のちに退院した父と再び暮らし始めた。
ビリーとニコはマリクのことが忘れられず、病院に忍び込んでマリクをさらうと思い出の海に連れて行った。マリクが好きだった歌を聴かせると、口元がほんの少しほころんだ。ボーは一命を取り留めたが体の自由を失い、ボーと別れたイヴは父とヨリを戻して家に帰ってきた。
《感想》酒浸りで呑めば横暴になる父と、そんな夫に嫌気がさして家出したネグレクト傾向の母。父の強制入院を機に子は母の元に行くが、母の彼氏も粗暴な奴でひと悶着起こるという子ども受難の日々が描かれ、前半はかなり重い気分になる。
後半になると、新たな少年が加わりアウトローと称して逃走と冒険の旅に出る。空気は一変し明るく開放的になるのだが、どことなく切なさ含みで、やりたい放題の楽しさと、やり場のない悲しみを抱えた旅が続く。
思うに子どもは親を選べないが、愛情を求めるのは当たり前。子どもにとって常に無慈悲な親なら距離を置くしかないが、横暴さと優しさを行き来するような親は一層厄介で、時折示される愛情が忘れられず、期待と失望の繰り返しになってしまう。その辺の子ども心の機微を優しく温かい大人目線で丁寧に描いていく。
それは悲惨な現実をリアリズム一辺倒で捉えないファンタジー目線でもあるのだが、社会派的側面から見るとそれが「甘さ」になってしまう。甘さが温かさや居心地の良さに通じているものと思うが、本作には甘いが故の苛立たしさを覚えてしまった。最も顕著なのがエンディングで、この唐突で安易な着地が、解決を放棄して消化しきれない異物を残したかのような、スッキリしない余韻となった。
パートカラーなど懐かしさもあって、インディーズの心地良さには浸れる。