敵対する政治と歩み寄る人情
《公開年》2021《制作国》韓国
《あらすじ》1990年ソマリアの首都モガディシュ。国連への加盟を目指す韓国は、多数の投票権を持つアフリカ諸国の官僚に対するロビー活動を進めていて、韓国大使ハン(キム・ユンソク)もカン参事官(チョ・インソン)を迎え、ソマリア政府の支持を取り付けようと奔走している。二人は大統領面談に向かうが、その途中で車が暴徒に襲われ、約束の時間に遅れてしまう。その時官邸から出てきたのは、同じく国連加盟を目指す北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)とテ参事官(ク・ギョファン)だった。両国間の競争は互いの足を引っ張り合うほどに激化していた。
そんな中、現政府に不満を持つ反乱軍による内戦が勃発し、街中に銃声が鳴り響き、平然と略奪や殺人が行われる地獄と化してしまう。暴徒の襲撃は各国の大使館にも迫ってきて、政府に大使館警護を訴えるがほとんど無力だった。
それは北朝鮮大使館も同じで、大使館を襲われたリム大使ら職員は家族を連れて脱出を試みるが、道中で反乱軍に襲われ絶体絶命に陥り、敵対する韓国大使館に助けを求めた。自分たちの食料も万全とは言えず、ソマリア政府の警護も当てにならない状況で、ハンは北朝鮮の大使館員たちを受け入れるべきかどうか悩むが、結果的に彼らを大使館内に招き入れる。
両国大使は疑心暗鬼になりながら方策を画策する。南としては、北を匿うのは国家保護法違反、かといって亡命を迫るのも困難。結局、南北統一ではなく戦場から逃げるために手を組むことになる。お互いにパイプのある南はイタリア大使館、北はエジプト大使館とそれぞれ交渉して、モガディシュ脱出を練った。そしてイタリア大使館から、韓国陣営だけなら脱出可能という回答を得たが、ハンは北朝鮮のメンバーも助けようと、彼らは転向したと嘘をついた。一方エジプト大使館に出向いたリムも、ソウルへの連絡可否を尋ねるなど気遣った。ハンとリムの間には密かな信頼関係が築かれていた。
全員救難機に乗せるというイタリア側の回答を得て、南北両国は協力体制をとった。車に防弾の本や砂袋、板を巻き付け、4台の車はイタリア大使館まで突き進む。だが途中で政府軍の検閲で止められ、強行突破するが政府軍の追跡と銃撃に遭い怒涛のカーチェイスが繰り広げられる。イタリア大使館に着いても政府軍と大使館警護の兵士は対峙するが、無事に迎え入れられた。途中で北のテ参事官が亡くなった。
イタリアの救援機で全員がケニアの空港に向かった。空港には北と南のそれぞれの迎えが待っていて、リムは感謝の意を表しハンとは機内で握手して別れた。迎えから「北の転向者」を問い詰められるがハンは懸命にごまかし、協力し合ったことが知られないよう、互いに知らぬふりをする。車に乗ろうとしてしばし躊躇するが、振り返ることなく無言で車に乗り込んだ。
《感想》内戦が激化したソマリアで、敵対する韓国と北朝鮮の大使館員が協力し合って死地から脱出するストーリー。当時の南北の外交戦略上の駆け引き、それぞれの国民の思いを巧みに織り込んで、分断された両国の国境を超えた交流を熱く描いていく。
中でも両国の人たちが相対して食事をするシーンがいい。韓国側が用意した料理に北朝鮮側は「もしや‥‥」と警戒して手を出さず、韓国大使がそれを食べて見せる。一瞬の気まずさが過ぎると、ぎこちないながら打ち解けて、和やかなひとときが生まれていく。
そして最後の別れ。脱出の後は協力が知られないよう、外交官として国家の枠組みに沿った行動をとらなければならない。両国大使は知らぬふりして別々の車に向かい乗ろうとしてしばし躊躇するが、振り切って目も合わせずに乗り込む。その胸に秘めた思い、南北両国の人にとっては感慨深いものがあるかと思う。
この辺の心の機微を描くのが実に巧い。そして政治というものに少しでも民意が反映されるならもっと暮らしやすくなる、そんな思いが押し寄せてくる。実話ベースの社会派映画として明確なメッセージを持ちながら人情の機微を描く、そんな柔軟性と確かな演出力を感じた。
気になったのは少し自国に寄り過ぎた視点だが、荒唐無稽なカーチェイスが些細なことは忘れさせてくれる。優れたエンタメ作品でもある。
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