大企業の環境汚染に挑む孤高の闘い
《公開年》2019《制作国》アメリカ
《あらすじ》1998年。法律事務所に勤める弁護士のロブ(マーク・ラファロ)は、農場主ウィルバー(ビル・キャンプ)の訪問を受け、自身の土地が大手化学企業のデュポン社によって汚染されているという訴えを受ける。普段は環境法の専門家として企業側の弁護を行っているロブだが、祖母の知人ということでウィルバーの農場を訪ね、デュポン社の廃棄物質によって190頭もの牛が死亡したという荒れ果てた農場を見て愕然とした。
ロブは環境保護庁が作成したこの土地の調査報告書を入手するが、有害物質については触れられず「農場側の健康管理の問題」と結論づけている。しかしウィルバーが記録したビデオには、衰弱や発狂の末に病死した牛の姿が生々しく記録され、ロブは訴訟を起こす決意をした。
1999年.ウィルバーがデュポン社を訴える形で訴訟が始まり、ロブが廃棄物に関する情報の開示請求をすると、デュポン社から膨大な資料が届き、根気強く整理していく中で「PFOA」という言葉が目に留まる。もしかしたら環境保護庁も把握していない化学物質かも知れないと化学の専門家に尋ね、それが人体に有害な化学物質ペルフルオロオクタン酸だと突き止めた。
PFOAは川や水道水に流れ出し、地域一帯を蝕んでいる可能性が考えられるが、地域最大の雇用主であるデュポン社から恩恵を受けてきた地元住民からは白い目で見られた。また、デュポン社はPFOAの危険性を40年前に知りながら隠蔽し、しかもテフロンに関わった社員にも被害が及んでいる事実を探り当てる。しかし相手は巨大企業、潤沢な資金で事実をもみ消そうとした。
ロブは不本意ながらウィスバーに和解を勧めるが、本人も妻もガンに冒されている彼は納得しない。元弁護士だった妻のサラ(アン・ハサウェイ)にも背中を押されてロブは奮起し、デュポン社の不正を暴く内部文書を政府機関にリークし、公聴会でPFOAの危険性について証言した。
法律事務所におけるロブは、地元住民を健康被害から守るため集団訴訟を提案するが、所内でも賛否が分かれ、ロブの孤独な闘いを見守ってきた上司のトム(ティム・ロビンス)の援護で踏み切ることになった。
尋問が開かれ、ロブが突きつけた報告書と証拠にデュポン社は異を唱えるが、調停が開かれた際は医学調査の実施に同意した。調査は利害関係のない独立機関で実施し、調査費用はデュポン社が負担することで開始する。
2005年。サンプル回収は速やかに済んだが、4年経っても結果が出ない。血液と病歴のデータが膨大なため因果関係の特定に手がかかったせいだ。そんな中、ウィルバーは他界し、結果を待つ関係者からの批判も起こった。
2012年.7年経って結果が出た。ガンをはじめ6つの疾患との因果関係が判明したというものだ。ところがデュポン社がその同意を反故にしたため、集団訴訟でなく個別訴訟に変わった。その後、個別の裁判が始まり、やがてデュポン社が折れて全住民との和解が成立した。しかし、世界中のPFOA禁止の流れに向けて、ロブの闘いは今も続いている。
《感想》世界的な化学企業デュポン社の発がん性物質PFOA流出による環境汚染と、それに立ち向かった弁護士の実話に基づく映画。
何より「テフロン加工の鍋」という馴染みのある言葉に惹きつけられ、たまたま新聞(1月31日付の朝日)で有機フッ素化合物PFASの記事を目にして、関心が現実の暮らしへと向いた。結論から言うと、現在日本で使われているテフロン鍋は安全らしい。2019年5月にストックホルム条約が締結され、日本では2021年10月からPFOAは規制されたとのことである。
それにしても、現在進行形の社会問題を実名で暴露していく、この姿勢が凄いし、よく映画化、上映できたものと感心する。主演のマーク・ラファロは環境保護活動家でもあり製作に携わっていて、彼の信念と情熱、そして映画の力を感じさせる。
だが、やや物足りなくもある。大企業ゆえのガードの堅さと、地域の雇用問題が絡んでくるので、主人公が四面楚歌、孤立無援で悩む姿は真に痛ましい。その苦悩は理解できるのだが共感にまでは至らない、そんなもどかしさを感じた。それは実話という制約の中でドキュメンタリー風に淡々と史実を追っている反面、法廷での闘いや主人公の人物像の描き方がアッサリしているためか。ドラマとして響くものが今一つという気がした。
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