殺し屋を巡る家族の葛藤と情愛
《公開年》1994《制作国》アメリカ
《あらすじ》殺し屋のジョシュア(ティム・ロス)は、一仕事終えて早速次の仕事を指示される。標的はイラン人宝石商で、場所はニューヨークのロシア系移民街リトル・オデッサ。ジョシュアはその町のロシア移民の家庭の出で、ロシアンマフィアのボス、ヴォルコフの息子を殺し、その地を飛び出していた。
ジョシュアの父アルカディ(マクシミリアン・シェル)は雑誌やタバコを売るスタンドを営み、高校生の弟ルーベン(エドワード・ファーロング)はそれを手伝っているが、学校はさぼりがちだった。母イリーナ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は脳腫瘍で余命僅かの身にある。ジョシュアの友人を通じて兄の帰還を知ったルーベンは、兄に会いに行き、病気の母に会わせようと家に連れてくるが、父は母に会うことを許さなかった。
ジョシュアは町を去る時に別れた恋人、アラ(モイラ・ケリー)と再会し、二人は再び燃え上がるが、アラは彼が抱える秘密に不安を覚えている。その一方、ジョシュアは昔の仲間に声を掛け仕事の協力者に取り込もうとしていた。また、息子を殺されたヴォルコフは躍起になって彼の行方を追っていた。
父アルカディは妻を愛し、彼女に献身的に接しているが、その裏で若い愛人ナターシャに悩みを語り、慰めを求めていた。母に会いたいジョシュアは、父が愛人を囲っているのを知るや父を脅して、母との面会を実現させる。母イリーナはルーベンの行く末をジョシュアに託した。
次の日曜日、兄弟の祖母の80歳の誕生日を祝うパーティーが盛大に開かれた。その席でヴォルコフはアルカディにジョシュアの居所を教えるよう迫り、口を割らないアルカディに、息子を始末するよう命じた。
同じ夜、ジョシュアは仲間と共に標的のイラン人を射殺し、死体を焼却炉で始末した。パーティー会場を抜けて兄を探していたルーベンは、たまたまその一部始終を見てしまう。そして彼らが焼却炉の前に捨てた拳銃を拾った。
やがて、父はルーベンが隠していた学校からの手紙を見て息子の不登校を知り、彼をきつくり顔を殴った。弟への暴力に怒ったジョシュアは、父を雪積もる河原に連れ出してひざまずかせ、後頭部に銃口を向けるが撃つことはできなかった。その頃家で母イリーナが倒れた。ヴォルコフに借金のあるアルカディはついに息子を裏切り、居所を告げた。
イリーナの葬式の後、ヴォルコフの手下に脅迫されて兄の危機に気づいたルーベンは、兄がアラの家にいると聞いて、急いで知らせようと自転車を走らせた。アラの家では既にアラが殺されていた。ルーベンはヴォルコフの手下の一人を射殺するが、仲間に間違って撃たれて死んだ。ジョシュアは弟ルーベンの死体を発見する。ジョシュアはルーベンの死体をシーツにくるんで担ぎ、焼却炉に入れて火を放った。
《感想》殺し屋のジョシュアはマフィアのボスの息子を殺し、家族や恋人を捨てて逃げた。父は人の道を外れた息子を許さず、母は病気を患い余命僅かの身だった。弟ルーベンは兄を慕い、兄を危機から救おうと奔走する。
実は、父は妻を愛し看病しつつも浮気をし、息子を心配するもつい手を上げてしまうのだが、子が成長すると親は見向きもされないと愚痴る。ところが放蕩息子の長男は、厳しい父親の欺瞞を問い質し強い憎しみを隠さず抵抗する。一方孝行息子の次男は、父の不倫、兄の非行を知りながらどうすることも出来ない。三人とも不器用で言葉足らず。家族とはいえ思いはうまく伝わらず、こじれてしまった父子関係は家族を非情な方向へと導く。
ラストは、死ぬべき人が死なず、生きていて欲しい人が巻き添えで死んでいく不条理。愛する人たちを失い一人生き残ったジョシュアは、抜け殻のような虚ろな表情を浮かべる。訪れたのは、完全な“無”だった。
マフィアものの抗争劇としては迫力不足、家族のドラマとしては情感不足の印象だった。殺人シーンは特に盛り上がらずに呆気なく、物語は静かに淡々と展開していく。そこに、言外に秘めたストーリーやメッセージを宿している気もするのだが、それがうまく響いてこないのは抗争劇に深みがなく、人物の背景が今一つ漠としていて共感できないから、という気がする。深い感慨が湧いてこないのだ。
しかし重厚でスタイリッシュで、独特の味わいがあることは確かだ。
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