『マイスモールランド』川和田恵真 2022

難民問題と青春、そのモヤモヤを描く

マイスモールランド

《あらすじ》公園の一角でクルド人の結婚の儀式が行われている。民族衣裳と独特の踊りで式が進む中、17歳のサーリャ(嵐莉菜)はどことなく居心地の悪さを感じていた。高校生の彼女は小学校の教員志望で大学進学を目指し、放課後になると自転車で埼玉の川口から川を渡り、東京のコンビニでバイトをしている。そのコンビニには同じくバイトの高校生・聡太(奥平大兼)がいて、店長は彼の伯父だった。
サーリャが住むアパートはコインランドリーの2階にあって、付近には多くのクルド人が住んでいる。クルドの言葉と日本語ができるサーリャは、周囲の人たちから何かと雑事を頼まれてしまう。妹弟も日本語しか話せない。父マズルム(アラシ・カーフィザデー)はクルド人の仲間と一緒に解体現場で働いていて、弟ロビンは小学生だがクラスメイトに溶け込めないでいる。
ある日、サーリャたち家族の難民申請が不認定になり、在留カードが無効になることが告げられた。仮放免の状態になり働くことは禁止、県外への移動は入管の許可が必要になってしまう。
それでも東京のバイト先に通い、サーリャは今まで隠していたクルド人であることを聡太に打ち明け、真剣に話を聞く彼との距離が縮まる。二人は一緒にいることが増え、雨に降られた日にサーリャの家に駆けこんだことから、彼女の父とも面識ができる。聡太は大阪の美大を目指していて、そのオープンキャンパスに誘われたサーリャは、自由にならない身だが「行きたい」と答えた。しかし二人の仲を危ぶむ父の怒りを買ってしまう。
ある日、不法就労がばれて父が収監されてしまう。そんな中、サーリャは弟を連れて聡太の家に遊びに行き、話の流れから彼の母親に父親が収監されていることを打ち明けた。まもなく、不法就労を理由にコンビニを辞めさせられ、母親が心配しているので聡太とも会わないで、と言われた。聡太には大阪行きを断った。
担任との面談で、サーリャは大学の推薦が取り消しになり、在留資格がないと一般入試も難しいと言われた。そんな折、級友に誘われてパパ活に加わって小遣いを手に入れる。家賃滞納を理由に退去を迫られていることもあり、サーリャは一人でパパ活をしてみるが、それ以上のサービスを要求されて逃げ帰った。聡太が心配し金を持って訪れる。
家族を置いて父は一人で本国に帰ると言っている。その真意が測りかねてサーリャは帰国をやめさせたいと訴えるが、実は父親の帰国を条件に日本で生まれた外国人の子にはビザがおりることがあるといい、それを知った父が帰ることを決断したようだ。面会に行くと父は、妻が眠るそばに行くと言い、「あなたたちの未来に光がありますように」と祈った。
帰宅すると、妹と弟が床の上に大きなジオラマを作って、石を並べて家族になぞらえていた。サーリャは父の言葉を噛みしめた。



《感想》埼玉県川口市近辺には多くのクルド人が住み、伝統文化を守り助け合って暮らしているが、彼らが日本社会に溶け込もうとしても、難民に対する社会の壁は厚く、暮らしの中で疎外感を抱き、家族の分断を強いられることもあるという。
また、日本の難民の受け入れ状況は、他の先進諸国に比べると格段に少なく、制度上の問題点が指摘されている。映画でも、難民不認定の理由が明確に示されていないが、これは現実にあり得ることだという。
日本人の大半は県境を気にすることなどないのに、他県に自由に移動できない人がこの国にいること、これは衝撃だった。難民に対する入管の非人道的としか思えない理不尽な対応、それが制度に沿ったものならば、それをいかに解決に導くか、未来への提言を期待するのだが問題提起だけで終わってしまった。そこがもどかしい。
映画にはごく普通の日本人が登場する。バイト先の店長は不法就労を理由に解雇し、彼氏の母親は子どもの幸せを願って別れさせようとする。無関心とか、偏見を抱くのも人が普通に持っている感覚で止むを得ないと思うし、現実だと思う。ただ映画には、我がこととして積極的に関わろうとする今一歩踏み込んだ姿勢が欲しかった。そこを残念に思う。
社会派映画としては詰めが甘いという気はするが、観客が抱いたモヤモヤ感は決して無意味ではないはず。解決の糸口にはならないが、状況を知り考える契機にはなったと思う。青春映画としては凡庸の域を出ない。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。