パズルを解くようなサスペンスコメディ
《あらすじ》桑田真紀(霧島れいか)は婚約者の裏切りを知って、同棲していたマンションを出て行く当てもなくレストランに入った。
①気弱で善良な会社員の宮田武(中村靖日)は、帰宅してまもなく親友で私立探偵の神田勇介(山中聡)から電話を受け、レストランに向かった。宮田は倉田あゆみ(板谷由夏)と結婚するつもりでマンションを購入したが、その直後に振られていた。レストランでは神田が宮田を励まそうと、たまたま近くにいた真紀をナンパし、神田は消えてしまう。
宮田は帰る所がないという真紀をマンションに連れ帰る。すると、突然あゆみが荷物を取りに来たと訪れ、真紀と鉢合わせをして真紀は表に飛び出した。追いかけた宮田は真紀の電話番号を聞き出し大喜びをする。
➁話は夕方に戻る。事務所に戻った神田をあゆみが待っていた。神田はあゆみを調べ上げていて、彼女は詐欺師で今はヤクザの浅井志信(山下規介)のオンナになっていた。あゆみはその浅井から大金を盗みだして、外国に逃亡したいので助けて欲しいと神田に頼む。金になるならと引き受けた神田は、真紀と二人、パスポートを探しに宮田の部屋に忍び込んだ。すると宮田がちょうど帰宅してしまい、神田はトイレから電話して宮田をレストランに呼び出した(冒頭の電話につながる)。
その後、浅井の報復を恐れた神田は、浅井の大金を組事務所に置いて逃げて、あゆみにパスポートを渡して別れ、レストランに入った(冒頭のレストランにつながる)。ところが、宮田と真紀を残して席を立った所で浅井の手下に捕まり組事務所に連行される。すると浅井があゆみを伴って現れた。浅井は便利屋を使って神田事務所に入り、あゆみの正体を知っていて、やがて神田は浅井に報酬を奪われて解放された。朝方、神田は大金の在りかを求めて宮田の部屋に行くが、あゆみの荷物は既にゴミに出されていた。
③話は再び昨日の夕方に戻る。金のやりくりに苦労している浅井は見せ金の大金を作っていて、その金庫の札束を見たあゆみはスキを見て奪って逃げた。後に金の入ったカバンは浅井に戻ったものの中身が女物衣類だったため、札束が偽物とバレるのを恐れ手下に神田を捕まえるように命じた。浅井はカバンにあった名刺を頼りに神田事務所に向かうが、するとあゆみから「レストランにいる神田が金を持っている」と嘘の電話が入り、その密告で浅井の手下がレストランにやって来たのだ。
一方浅井は、神田のファイルから宮田のことを知り、便利屋を使って彼のマンションに忍び込んで偽の札束を見つけた。丁度そこに宮田と真紀が帰り、真紀は偽の札束を見つけてこっそりカバンに隠した。続いてあゆみが現れ、金を持ち逃げする真紀を宮田が追いかけたので、浅井は残されたあゆみを捕まえた。
当然ながら真紀は宮田に嘘の電話番号を教えていた。しかし宮田は真紀を信じ込んでいる。朝になり、金を持って逃げたもののどうすべきか悩んだ真紀は、考えたあげく宮田のマンションに戻って来た。
《感想》気弱で善良な会社員の宮田、その友人で探偵の神田、婚約者に裏切られ家出した真紀、女詐欺師のあゆみ、その情夫でヤクザの浅井という5人が織りなす群像劇。恋人に裏切られた者同士が出会って抱く淡い思いと、ヤクザが持つ大金(?)を巡る騒動で物語が展開するのだが、その作りは平坦なものではない。宮田、神田、浅井の順に、各々の目線で角度を変えて描かれたストーリーが繋がっていき、時間軸を巻き戻すことによって、少しずつ裏に隠された真実が明るみになってくる。パズルのピースが埋まっていく感じで、脚本の妙だと思った。
内容は、人と人の出会いとすれ違いを、緻密さとワクワク感で描いたサスペンスコメディという印象。物事にはあまり深入りせず、登場キャラの軽さも手伝って淡々と展開していく。観終わった後はパズルが完成した後の安堵感のようなものはあるのだが、気分爽快、後味良好という程ではない。伏線の回収が実に見事で気持ちいいのだが、そこも却って鼻につくところ。やや複雑に作り込み過ぎて、加えて登場キャラの肉付けが弱いため、感情移入しにくいのではないか、と思えた。
後の傑作『鍵泥棒のメソッド』と同様“ホンワカいい人感”のドラマなのだが、キャラと役者が薄味だったのと、オチの弱さから共感は今一つだった。
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