『渚のシンドバット』橋口亮輔 1995

優しくて切なくて微笑ましい夏

渚のシンドバッド

《あらすじ》高校2年生の伊藤修司(岡田義徳)は、クラスメイトで同じ吹奏楽部の吉田浩之(草野康太)に密かな恋心を抱いていた。吉田はそんな思いに気づくことなく親友として優しく接するのだが、それが却って伊藤には辛かった。
ある日、伊藤が音楽室で部活の準備をしていると、転校したばかりの相原果沙音(浜崎あゆみ)が顔を覗かせる。まだ周囲に馴染めず、媚びることもない彼女は、クラスでは孤立した存在だった。相原は、同じクラスの清水彩子や奸原とおるがいる前で、伊藤は吉田が好きなのではないかと探りを入れてきた。鋭い洞察力に驚いた伊藤は、以後相原と距離を置くようになるが、彼女の方から積極的に付きまとうようになる。
伊藤は、興味本位で出したホモ雑誌の交際欄の返事が父親にバレて、心療内科に通院することになり、そこで相原と出会う。彼女もまたレイプに遭ったトラウマから立ち直るようにと、病院に通わされていた。
一方その頃、松尾リカへの気持ちを伊藤にだけ告白していた奸原は、松尾に嫌われてしまった腹いせに、伊藤がホモで吉田に気があるとの噂をクラスに流していた。そのことでクラスメイトにからかわれた伊藤は、それをきっかけに吉田に自分の気持ちを告白する。平静を装うが動揺する吉田に伊藤はキスを迫り、形だけのキスと抱擁はしたものの吉田は尻込みするのだった。
心に影を持つ者同士からか伊藤と相原は心を開いて話せるようになる。一方、吉田は同じクラスの優等生、清水から好意を寄せられていた。そして吉田・清水がデート中に、伊藤・相原がバッタリ会い、ダブルデートになって気まずい雰囲気が漂う。実は吉田は相原が好きなのだが、告白された伊藤にも微妙な感情を抱いていた。後日、吉田は相原に迫って抱きつくが、相原から伊藤との関係を問われ「伊藤は変態!」と口走ったため相原の怒りを買ってしまう。
そして夏休み。相原から海辺の田舎にいると伊藤に連絡が入る。昔の友人から相原のレイプ事件のことを聞かされた吉田は、自分の無神経さに自己嫌悪に陥る。そこで吉田は伊藤に頼み二人で相原の田舎へと向かった。吉田は相原を見つけて謝るが、彼女はそっけない返事を繰り返すばかりだった。
夜、海で泳ぐ相原の洋服をふざけて着た伊藤が浜辺に座っていると、暗がりでその後ろ姿を勘違いした吉田が彼女への気持ちを告白する。そして吉田は女装の伊藤を抱きしめ、相原ではないと気づいた吉田はからかわれていると怒り、相原は「あんたは私とヤリたいだけ」と言って草むらに横になった。吉田は相原に抱きつきすがって泣いた。しかし、それを見た伊藤が海に飛び込んで溺れそうになり、吉田は海に入って救助する。懸命に人工呼吸をする吉田に、目を覚ました伊藤は「やれば出来るじゃん」と悪戯っぽく笑った。翌日、伊藤と吉田は町に向かう列車に揺られていた。



《感想》同級生の男子に密かな恋心を抱く男子の伊藤、レイプされた暗い過去を引きずる女子高生の相原、伊藤から愛されるが自身は相原が好きな男子の吉田。奇妙な三角関係が生まれる。
伊藤は、同性しか愛せない自身の性癖に悩むがあくまで自分に正直であろうとする。性被害者として異性への嫌悪を持つ相原は、ゲイである伊藤の性を超えた愛情に共感し、心に影を持つ者同士の親近感から心を開いていく。
吉田が最も複雑だ。伊藤の告白を受けて微妙な感情が生まれたものの、常識的な観念からゲイを「変態」と拒否して、一方で異性の相原に惹かれていくが拒絶されて性の葛藤に悩まされる。結局、自分の本音が掴めず、表面上の親友を貫いているが、それも優しさなのかズルさなのか。
だから、三者三様の感情がぶつかる夜の浜辺のシーンが圧巻。三人ともモヤモヤしてやり切れない思いを爆発させ、昂ぶる気持ちのまま振る舞うのだが、それで何を得てどう変わったかは獏としたモヤモヤのままである。抑えられない欲望と満たされない苛立ちがあって、傍から見ると痛々しいような微笑ましいような、それが青春か。
同性愛とか性被害とか、当時としては際どい内容なのだが、それを真摯に繊細に、傷ついた側に立って心の奥深くまで描こうとする。重いのだがその眼差しはとても温かい。正攻法の青春映画だと思う。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!