『生き残るヤツ』アイヴァン・パッサー

悲惨で滑稽なジャンキーに愛を込めて

生き残るヤツ

《公開年》1971《制作国》アメリカ
《あらすじ》麻薬常習者の(ジョージ・シーガル)は、刑務所を出所してニューヨークに舞い戻ったものの、彼の影響でヤク中になった元妻は麻薬組織が経営する酒場に囲われ、彼自身もヤク欲しさの資金稼ぎに取り組むのだがうまくいかない。
ある夜、駐車中の車を盗もうとしたところを女に声を掛けられ、それが持ち主だったが咎められるどころか誘われて、女の家までついていく。女はパーム(カレン・ブラック)という売春婦で、一夜を共にした。
翌日、街に出ると麻薬密売の元締めギーク(ヘクター・エリゾンド)から麻薬運搬の仕事を持ち掛けられ、貿易商のスタンリーの家までヤクを運んだが、ギークは金はおろかヤクもくれない。怒ったJは親友のビリー(ジェイ・フレッチャー)と共にスタンリーの家に乗り込んでヤクを奪おうとしたが、張り込んでいた刑事に捕まった。
麻薬課の刑事はJを締め上げ、ギークを逮捕に協力しろと脅かして、約束させて釈放した。Jは仕方なくギークに会いに行くが、ギークから次の仕事を持ち掛けられる。Jとパームとは親密な仲になっていて、仕事に付いていくという彼女を乗せての仕事の途中、待ち伏せたスタンリーに捕まってしまう。
全裸で部屋に監禁されたJだったが、窓から向かいのベランダの母娘にサインを送って警察を呼び、ドサクサに紛れて逃げ出しパームの家に転がり込んだ。今はここしかJの安息の場はなかった。車で何処かへ行こうとパームに誘われ、荒涼とした冬の浜辺で遊んだ。
パームは二人で旅に出ようと言うが、Jは禁断症状に震えながら、ギークから金を取り立てることだけを話す。震えるJをパームは抱きしめた。
街に戻ったJはビリーを伴ってデイビーの家にヤクを買いに行くが、売人から強盗に早変わりして有り金を置いていけとナイフを突きつけてきた。咄嗟にビリーが拳銃を向け逆に有り金をさらってしまう。
やがて刑事は、ヤクの仲買人に化けてギークを罠にかけるから彼をおびき出せと命じた。しかし、有利な商談にも関わらず用心深いギークは話に乗らず、罠は失敗に終わってJの立場はますます悪くなった。
そんなJに売人からヤクの差し入れがあり、喜んだJとビリーはビルの化粧室に入りビリーが先に注射した。ところが突然彼は苦しみ出したちまちこと切れてしまった。ギークが劇薬で自分を殺そうとしたと悟ったJは、恐怖におののきパームの元へと逃げた。
それでも警察からは再度ギーク逮捕への協力を迫られ、しかもパームの車からヤクが発見されたと嫌疑をかけられ、彼女は人質として逮捕されてしまった。Jは身動きのとれない立場に追い込まれ路頭に迷うのだった。



《感想》麻薬常習者のJは刑務所から出所したものの、その魔力はたやすく断ち切れるものではなく、ヤクを求めて街をさまよい、ヤク欲しさに犯罪に加担していく。ヤク切れによる激しい禁断症状に怯えて、藁にもすがる思いで必死に何でもしようとする。
映画はそんな悲惨で殺伐とした男の人生を冷たくドキュメンタリー風に追いながら、一方で滑稽なギャグを連発して温かなコメディ世界へと引き込んでいく。
ドラム式洗濯機に身を隠したらスイッチを入れられてグルグル回され、麻薬取引のトラブルから全裸で監禁されたら、変態まがいの脱出方法を試みて女物コート1枚で街へ逃げ出す。こんな悲惨と滑稽が唐突に入れ替わり、深刻な状況なのだが落ち込まない、摩訶不思議な世界へと誘われる。
この当時はアメリカンニューシネマの全盛期で、主たるテーマは「反抗と逃避」。それ風のタッチだが「反抗」には程遠く、むしろ現実逃避からの放蕩生活を描いたB級活劇の感が強い。そしてこの活劇の面白さ、アメリカンニューシネマのアウトローとは異なるカッコ悪さが、ダメ男への感情移入を誘い、本作のつかみどころのない不思議な魅力になっている。
とんでもないドタバタがあるからこそ、禁断症状に震えて荒涼とした浜辺で恋人に抱かれるシーンや、友を失い恋人と引き裂かれ一人ベンチに佇むラストシーンが一層心に響き、社会の底辺をさまよう男の哀愁が共感の涙を誘う。
昔も今も評価されていないが、麻薬撲滅キャンペーン映画として現代でも通用しそうだし、B級活劇の面白さが十分堪能できる映画である。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!