『ジョゼと虎と魚たち』キム・ジョングァン

静かに深く、映像美で描く大人のジョゼ

ジョゼと虎と魚たち

《公開年》2020《制作国》韓国
《あらすじ》大学生のイ・ヨンソク(ナム・ジュヒョク)は、道端で倒れている車椅子の女性を助けて自宅まで送り届けた。ジョゼ(ハン・ミジン)と名乗るこの女性は足が不自由で祖母と二人暮らし。助けてくれたお礼に食事をごちそうになった。
ジョゼと祖母は廃品回収で生計を立て、ほとんど引きこもり生活のジョゼは祖母が拾ってきた古本を読むことが楽しみで、ヨンソクは偶然街で見かけた祖母の手伝いをしたことから度々通うようになる。
その頃のヨンソクは大学の女性教授と不倫関係にあって、大学の後輩のスギョン(イ・ソヒ)とも付き合っていた。だがジョゼの家で食事をし、身の回りの手伝いをするうち、いつしかジョゼに惹かれていった。ジョゼはサガンの小説が好きで、ジョゼの名もサガンの小説から取ったものである。
ある日、ヨンソクは自動車修理工場に勤めるジョゼの幼馴染のチョルホ(チョ・ボクレ)に会いジョゼの過去を知る。彼女はチョルホと共に孤児院で育ち10歳の時、折り合いの悪かった施設長の食事に殺虫剤を入れて逃げたという。それ以来、施設長が死んだと思い込んだジョゼは、血の繋がらない祖母にかくまわれて引きこもり生活をしていたのだった。変な空想を現実と思い込むところがあると話した。
スギョンはボランティア活動に熱心で、その叔母を通じて福祉団体をジョゼ宅に派遣してもらうが、障害者用の設備改修を提案されても、ジョゼも祖母も消極的だった。そして、福祉団体に紛れてスギョンが来たことから、ジョゼもスギョンも互いにヨンソクとの関係を疑い始め、ジョゼからは「もう来ないでくれ」と言われ、スギョンも離れていった。
ある日、街でボランティアの人からジョゼの祖母が亡くなったと聞き、ヨンソクはジョゼの元を訪れた。すっかり引きこもりの生活をしているジョゼは、一度は追い払おうとしたが、帰ろうとするヨンソクを引き留め、そばにいて欲しいと懇願した。その夜、二人は結ばれた。
ヨンソクはジョゼの家に越してきて一緒に暮らし始めた。また就職活動は、関係していた女性教授の影響を受けながらも、何とか乗り越えた。
それから5年後。ヨンソクはジョゼと一緒に憧れのスコットランドを訪れていた。海沿いに佇み、やがてジョゼは一人ベンチに座っていた(実はジョゼがストリートビューを見ながらの空想)。
ジョゼは祖母の納骨を済ませ車で帰る途中だった。ヨンソクはスギョンとの結婚が決まり、車で話をしながら赤信号で止まると、隣の車の運転席にはジョゼがいた。ヨンソクはそれに気づき溢れる涙を隠すのだった。
〔二人の回想〕水族館に行った二人。ジョゼから「あなたがいなくても、もう大丈夫」と別れを切り出され、ヨンソクは泣いた。帰りの桜舞う中でジョゼは「美しく死んでいく花」は幸福だと思った。



《感想》本作を観て、犬童一心の日本版(2003年)を観直した。ジョゼの年齢や性格も、大学生のキャラ設定もだいぶ異なり、リメイクの面白さと難しさを感じた。二人の別れ方も違った。
日本版では、大阪弁で快活に憎まれ口を叩くまだ幼さの残るジョゼだったので、餞別にエロ本を贈られて表向きサッパリと別れ、後に恒夫は「僕が逃げた」と号泣する。
韓国版のジョゼは30歳代の年上女性で、より深い傷を重ねたせいか口数少なく心を閉ざしたまま。水族館で「あなたがいなくても、もう大丈夫」と拒絶するように告げられ、ヨンソクはそれを受け入れて泣いた。
また、韓国版はいきなり「それから5年後」になってしまい、別れまでの経緯は描かず、観客に判断を委ねている。加えて、ジョゼの空想癖と回想シーンが混乱を招いて、別れずにヨンソクがジョゼと結婚すると解釈する向きがあるようで、何ともこの曖昧さが歯がゆい。 
描かれるのは、大阪弁が醸す粗雑な中に明るさと切なさを宿した日本版と違い、静かに美しく沈んだ詩的な世界。セリフを最小限に抑え映像で語ろうとするその姿勢は、人の動きだけでなく、室内の隅々の何気ない佇まい、周囲の生活のざわめきまで捉え寡黙だが雄弁に語りかけてくる。韓国で撮るとこうも変わるのかと驚く。
盛り込んだエピソードには、リメイクなりのオリジナリティを出したい、そんな意欲と苦労が見えるが必ずしも成功していない。しかし映像美と静謐で深みのある演出、主演の二人が魅せる。

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投稿者: むさじー

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