『青春神話』ツァイ・ミンリャン

さまよう若者たちの鬱屈した暴走

青春神話

《公開年》1992《制作国》台湾
《あらすじ》夜の台北。不良のアツー(チェン・チャオロン)は、相棒のアビン(レン・チャンピン)と組んで公衆電話やゲーム機から硬貨を盗み、ゲームセンターで遊ぶ日々だが、兄の恋人アクイ(ワン・ユーウェン)と親しくなる。
一方、予備校に通うシャオカン(リー・カンション)は、将来の目標が見えず、とりあえず自由にできる金が欲しいと、予備校をやめて学費の払い戻しを受けようとするが断られた。ある日、タクシー運転手をする父の車に乗せてもらった時、後ろにアクイを乗せたアツーのバイクとトラブルになり、彼に車のミラーを壊される。シャオカンの母親は占いで、息子シャオカンは伝説の英雄「ナタ」の生まれ変わりと言われ、それを信じているようだ。
アツー、アビン、アクイの三人は連れ立って、映画、居酒屋、ゲーセンと夜ごと遊び歩き仲を深めていく。一方のシャオカンは、授業料の返還を受けてモデルガンを買った。そして連れ立った三人組の後をつけた。
閉店後のゲーセンのトイレにアツーとアビンは潜み、別の場所にシャオカンは隠れた。やがてアツーとアビンはゲーム機をこじ開けてプリント基板を盗み、あらかじめ逃走に準備した非常口から出たが、シャオカンは取り残され一夜をそこで過ごすことになる。
翌日、ローラースケート場の受付をするアクイの元を訪れたシャオカンは、彼女とアツーの後を追い、ホテルに入る二人を見届ける。そしてアツーのバイクを力の限り壊した。何日かぶりに帰宅したが両親に締め出され、アツーらが入った向かいのホテルに泊まった。
ホテルで一夜を過ごしたアツーとアクイだが、アツーは早朝にゲーセンに出かけてアクイが目覚めた時にはいなくて、アツーが部屋に戻った時にはアクイはホテルを出ていた。
アツーはホテル前でボロボロになった自分のバイクを見て愕然とし、それを向かいのホテルから見ていたシャオカンは跳び上がって狂喜した。修理屋までバイクを押し運ぶアツーにシャオカンは「手伝おうか」と声をかけた。
修理代は高額で、アツーとアビンは盗んだプリント基板をゲームセンターに売ろうとするが自分たちの犯行がばれて、逃げたものの捕まってアビンが重傷を負う。そこへシャオカンの父親のタクシーが通りかかり、二人をアツーの家まで運んだ。そこにアクイが訪ねてきて、泣きながら「ここを離れよう」と言い、二人は抱き合った。
シャオカンの家では父親がドアを開けて待っているが、素直に帰れない彼はテレクラに行く。しかし電話は鳴るが受話器をとれず、何もしないまま出て行き、夜の台北をさまようのだった。



《感想》経済発展の渦中にある台北で、周囲はどんどん高みを目指すのに自分にはまだ目標が見えず、焦りと取り残された疎外感から暴走する若者像。この息苦しい閉塞感は、この当時を描いた台湾映画に共通するところだが、本作にはもう一つの視点、家族のしがらみと葛藤が背景として描かれ、ドラマに奥行きをもたらしている。
シャオカンの場合は分かりやすい。両親共に息子を何とか一人前にしようと予備校に通わせ期待しているが、当人は無為無欲の日々。その距離は広がるばかりだがやはり親子で、一度は締め出した息子が帰りやすいように玄関のドアを少し開けておく父親の気遣いが刺さった。それでも息子は夜の街を彷徨うばかりだが。
アツーの場合はやや複雑だ。同居する兄の恋人だったアクイと親密になるが「奪えない」というジレンマから抜け出せない。彼女はその気なのに一線を越えられず(ベッドを抜け出す二人の下着姿から推察)、彼女を置いて先に帰ってしまう。ラスト近く訪れた彼女に「兄はいないよ」と言う。ホテルに行った仲なのにこれは傷つくだろう。彼女から「ここを離れよう」と言われても、どこへ行ったらいいのか分からないと抱きしめるだけ。彼もまた彷徨い人だ。
降り続く雨、排水があふれて水浸しの床、4階に止まるエレベーター、身の周りはままならない事ばかりだが、若者には家族という呪縛もままならないストレスになってのしかかる。
うっかり見落としてしまうほど寡黙で繊細な演出にはデビュー作の初々しさが見えるが、あえて汚点や忌み嫌われる方へ視点を向ける気骨もデビュー作ならではの意気込みに思えた。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!