『流浪の月』李相日 2022

様々な愛の形と家族、社会の壁

流浪の月

《あらすじ》雨降る公園で一人本を読む9歳の少女・更紗(白鳥玉季)に、大学生の佐伯文(松坂桃李)は傘をさしかけ声をかけた。そして家に帰りたくないと話す更紗を文は自分のアパートに連れて帰る。父親を亡くし母親が恋人と暮らし始めて、叔母の家で暮らす更紗だったが、同居する従兄が触りにくるのが嫌で、居心地の悪い思いをしていた。結局、彼の部屋に居付いてしまう。
同居から2か月が経ち、更紗の行方不明がテレビで話題になり、湖に二人いるところを通報されてしまう。更紗は保護され、文は逮捕された。
それから15年後、更紗(広瀬すず)はレストランのウェイトレスとして働き、亮(横浜流星)という恋人もできた。彼は更紗の過去を承知の上で結婚を申し込むが、更紗は踏み切れないでいる。
そんな時、立ち寄ったカフェで店主をする文と驚きの再会をして、それからはカフェに通うようになる。文と話したい思いで帰りがけを待っていると、恋人らしき若い女性と一緒で、更紗は安堵した気持ちになった。後に谷あゆみ(多部未華子)と知った。
その頃から亮が更紗を束縛するようになり、時に暴力を振るうようになった。亮の親族から、亮は不幸な過去を持ち逃げ場のない女性を選ぶと聞く。彼自身も複雑な家庭で育っていた。
ある日、更紗はSNSに文の暴露情報が書き込まれているのを見て、その写真を流出させたのが亮だと知ってショックを受け、亮を責めた。責められた亮は逆上して激しく殴りつけ、頭から出血し家を飛び出した更紗は街をさまよい、路上に座り込んでいるところを文に声をかけられ彼の店に行った。手当てを受けた更紗は、文が逮捕されたとき何も弁護できなかったこと、また自分のせいで文の店に悪評がついたことを詫びた。間もなく更紗は文の隣の部屋に引っ越してきた。
ある日、更紗は同僚でシングルマザーの安西から娘の梨花(増田光桜)を預かることになった。彼氏と旅行に行った安西は戻らず連絡もつながらず、結局、文が梨花の面倒を見た。ところが、文が梨花といる姿がまたSNSにあげられ、騒ぎ出した週刊誌のせいで更紗はクビになり、文の店は嫌がらせを受けた。
騒ぎの元凶は亮と見た更紗は、彼の元に向かい責めたが、今までと違って荒んだ暮らしをしている亮は、突然手首を切って自殺を図り、救急車で病院に運ばれる騒ぎになった。警察に呼ばれた更紗は、亮よりも文のことで聴取を受けた。結局、梨花は保護され、文は事件性なしで釈放された。
更紗はまた迷惑をかけたことを文に詫び、文との出会いがあったから生きてこられたと話す。話すうち思いつめたように文は全裸になり、自分は第二次性徴が来ない病を患っていて、誰にも言えず苦しんできたことを涙ながらに打ち明けた。更紗は泣きじゃくる文を優しく抱きしめた。「俺といたらどこに行っても‥‥」と言う文に更紗は「そしたらまた流れればいい」と答えた。



《感想》ロリコンの女児誘拐という特異な事件が物語の中心だが、性暴力、DV、育児放棄、ネットやマスコミの暴力など、自身や家族に闇を抱えた人たちの悩み、苦しみが吐露されていく。小児性愛者として社会から排斥されてきた文には実は隠し続けた秘密があった。やがて、第二次性徴が来ないという性的疾患があることを更紗に打ち明け、過去に性的虐待のトラウマを持つ彼女と二人して、互いを受け入れ手を取り合って生きていこうとする。これも愛だとは思う。
だが終盤になって、全ての起因が身体的障害にあったと帰着させるのはやや安易ではないか。意外性はあるがその特殊な設定に唐突感は否めず、感情移入しにくいものになった。むしろロリコンとか白眼視されそうな嗜好の性的マイノリティであれば、世の中のモラルや正義の欺瞞、少数者に不寛容な社会へのアンチの主張がより明確になった気がする。
また全体は論理的に構成され念入りに作り込まれたドラマだと思うが、編集段階の大幅なカットで言葉足らずというか、状況の奥が見えにくくなっている。監督の裏話によると4時間で仕上げ2時間半にカットしたとあるが、骨董店主や谷さんとの絡みは明らかに省略しすぎ。観客に想像させることも大切だが、描かなければ伝わらないこともある。全ては脚本の完成度によるものかと思う。いずれ「完全版」を観たいと思った。
とにかく凄い熱量に圧倒される映画で、その分、消化不良のモヤモヤ感が残った。

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投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 「My Favorite Movies 1001」を目指します。