『さがす』片山慎三 2022

死の淵で通う心と深い闇

さがす

《あらすじ》大阪市西成区、日雇い労働者の原田智(佐藤二朗)は中学生の娘の楓(伊東蒼)と二人暮らしで、万引き癖のある智が万引きするたびにしっかり者の楓が謝りにいくのだった。その帰り道、智が楓に「殺人で指名手配犯の山内照巳(清水尋也)を見かけた。懸賞金は300万円だ」と息巻くが、翌朝、楓が目覚めると智の姿がなかった。
心配した楓は、彼女に好意を持つ同級生の花山を連れて智の日雇い現場に行くが、そこにいたのは同姓同名で別人の若い男だった。だが爪を噛む癖から、もしかしたら山内照巳ではないかと感じた。その後も担任教師や警察に相談するが進展はなく、そんな時智から「探さないでくれ。父は元気だ」とメールが入る。
楓は手掛かりを求めて山内らしき男を捜すようになる。すると智がかつて経営していた卓球場で偶然にも寝ている山内を発見する。山内は楓を見るなり逃げ出して、楓が掴んで離さずに、脱いで残された山内のズボンには智のスマホと、果林島⇔神戸港の往復乗船券が入っていた。楓は花山を伴って果林島に向かい、そこで智が絡んだ事件に遭遇する。
〔3か月前〕山内はSNSを通じて自殺志願者を集め、希望を叶えると称して遺体を損壊しクーラーボックスに入れていた。この日もムクドリ(森田望智)と名乗る女が現れるが、折しも警官の捜査を受けて、山内はその場から逃げ出し果林島に流れ着いた。そこではミカン農家を営む一人暮らしの老人に拾われて世話になるが、些細な諍いから老人を殺害し、彼の家を拠点にするようになる。しかし金に困った山内は、西成で原田智に会い日雇い労働者として働くことにして島を離れた。
〔13か月前〕智の妻の公子は重度の難病、筋萎縮性側索硬化症を患っていて、病状は悪化し、いつしか公子は安楽死を望むようになっていた。悩む智に願いを叶えてあげようと持ち掛けてきたのが介護士の山内だった。智は山内に依頼して実行に移し、その後は山内の仕事を手伝って、SNSの連絡係となった。
〔3か月前の続き〕そんなある日、あのムクドリから連絡が入り、障害者となったムクドリを智が東京まで迎えに行き島まで連れてくるという手筈になり、潜伏中の山内は智に成りすますことになった。
そして智は失踪してムクドリを島に送り届け、山内は島に逃げ帰った。山内がムクドリの首を絞めた後、智は手にしたハンマーで山内の頭を殴って殺害し、死に切れなかったムクドリをも絞殺した。その上、自らの腹を包丁で刺して救急車を呼び、その修羅場に駆け付けたのが楓だった。智は、山内に脅されたと嘘の供述をして懸賞金と感謝状を貰った。
智は山内の跡を継ぐようにSNSを介した嘱託殺人の仕事を始めた。楓には智の行動がどうも腑に落ちなくて、自殺志願者を装ってSNSに連絡を取り、智の犯行を確信した。パトカーが近づく中、再オープンした卓球場でプレーしながら楓は智に「忘れたらあかんで。私のことも、母のことも」と告げ、全てを理解した智と二人、涙を流した。



《感想》大阪の街と瀬戸内の島を舞台に、失踪した父親と追いかけて捜す娘がいて、そこに死にたがる女と殺人鬼が交錯し、難病の妻を抱えた父の過去が絡んで嘱託殺人へと発展する。前半は娘目線で展開し、後半は時間を遡って父親目線で真相が明かされていく。この構成がうまい。
また、死や罪を巡り「流す涙」が強く印象に残った。
自殺志願者のムクドリと世話をしながら移送する智が駅の多目的トイレで、智は亡き妻を想い、ムクドリは父を想って流した涙。缶ビールに目をやる智に撲殺された山内が、彼を見つめ流した無念の涙。そしてラスト、智の犯行を確信した楓と「見つかった」智が卓球をしながら流した涙。それぞれ流す涙の意味合いは違うが、通い合うものが見えてきて涙を誘われる。
全体は目を背けたくなるヘビーな内容だが、時にユーモアを交え、重くなり過ぎないようエンタメ性も配慮されている。AV趣味の独居老人が登場したり、少女漫画風の思春期男女のやり取りがあったり、挿入される小ネタも多彩だ。関西独特の軽いノリが寄与している気もするが、ポン・ジュノの助監督をしたという監督の経歴が大きいように思う。韓国サスペンスの味わいと独特の猥雑さがうまくブレンドされているように感じた。
ご都合主義、筋の粗さから突っ込みどころもあるが、それを強引に吹き飛ばすような勢いがある。邦画では久しぶりに体験した。

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投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 「My Favorite Movies 1001」を目指します。