『あいたくてあいたくてあいたくて』いまおかしんじ 2022

出会いの奇跡と人生再出発の物語

あいたくて あいたくて あいたくて

《あらすじ》1年前に夫を亡くし、残されたタイ料理店を一人で切り盛りしている淳子(丸純子)は、店に置く手作りテーブルをネットで購入した。送られてきたテーブルは素朴で素敵な作りなのだが、おまけに付いてきた人形の首がとれていて、ほんの気遣いのつもりでそれを店に伝えると、家具職人の祐司(浜田学)から送り直すと返事が来る。
そもそも不要なものを送られて、それが壊れているからといって送り直そうという姿勢に納得がいかない淳子は、「親切の押し売りはやめて。あなたは宮沢賢治『ツェねずみ』のねずみにそっくり」と返信し、そこから二人のメールでの会話が始まる。メールに反発した祐司だが、さっそく『ツェねずみ』を読んでみた。
淳子には一人娘の大学生・綾香がいて、交際中の彼氏の一郎と同棲したいと言う。それを許して一人暮らしになった淳子の元には、亡夫の親友だった寺岡(柴田明良)が度々訪ねてきて再婚を迫ってくるが、淳子はそれに対しあいまいな態度をとってきた。
実は祐司も一年前に離婚したばかりで、元妻のかすみ(川上なな美)は自由奔放な女。新しい恋人だという上野(青山フォール勝ち)という男を祐司に紹介し、まだかすみに未練を残している祐司との、奇妙な三角関係が始まる。祐司はかすみの不満を聞きながらベッドを共にし、上野のやけ酒に付き合って彼を泊めてあげた。
淳子は夫がいた頃より料理の味が落ちたと気にしている。前の方が柔らかくて優しい味だったという。彼の味をこの世に残したいが、何が足りないのか分からないのだった。寺岡とは一夜を共にする仲になっているのだが、「いい人だけど踏ん切りがつかない」でいる。だがいつまでもズルズル引きずる訳にもいかず「夫が忘れられない」とプロポーズを断り、大人の別れとなった。
1年前に大切な人を失った淳子と祐司は、互いに身辺に起こる私事まで綴るようになり、やがて会ったことのない相手に興味を抱くようになる。
そんなところへ娘の綾香が一郎と喧嘩して帰ってくる。二人の関係ももつれて、酔った一郎を祐司が介抱して家に連れて帰り、上野を交えた男三人で飲む。一郎と上野はそれぞれ彼女に謝ると言って去った。
淳子は亡夫の味を引き継ぎたいと思い、祐司は家具職人として師匠の技に追いつきたいと思う。そんな思いを書き綴るうちに、淳子は「開店の日」のDVDを見てソースの隠し味を発見し、亡夫の味を再現することに成功した。
淳子は祐司に「あなたのおかげ。お店に食べに来て」とメールして、やっと祐司が店を訪れる。『ツェねずみ』の本を互いに示して初対面を果たし、祐司は淳子自慢のカオマンガイを食べた。そして二人は川をはさんで向かい合わせに住んでいることを知った。心から理解し合える相手と感じた二人、これからの二人の人生に明るい未来が開けたことを予感させて幕を閉じる。



《感想》1年前に大切な伴侶と別れた中年の男女が、ネットでの些細な言い争いから会話を始めて、他愛のない身辺の私事を綴るうちに、互いに悩みを打ち明け支え合う存在になっていく。やがて相手に興味が湧いて、たまらなく会いたくなって顔を合わせ、愛を確信するまでの心の軌跡がメールのやり取りで丁寧に描かれる。
また、食堂を営む女は亡夫の味を引き継ぎたいと願い、男は家具職人として師匠の技に追いつきたいと願っている。そして二人は人から人へ脈々と受け継がれる伝承世界に、人生後半の楽しみ、生きる希望を見いだすのだった。
不器用な恋愛あり、情感のこもった濡れ場あり、脇キャラが絡んで人情喜劇風に展開する。役者陣も、丸純子の生活感あふれる可愛らしさと浜田学の生真面目善人の朴訥さが絶妙な存在感で、いい味わいを生んでいた。
以前、同監督の『つぐない 新宿ゴールデン街の女』を観た時、中年男女の恋愛の機微、切ない大人の別れ、心のヒダを描くのがうまいと感じていた。同作は過去を背負った中年男女4人が思いを秘めながらすれ違っていく、そんな人生模様を情感たっぷりに昭和の雰囲気で描いていたが、本作はネット繋がりなのでより今風。共に人の体温が感じられ、緩さの中にぬくもりがある。

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投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 「My Favorite Movies 1001」を目指します。