『仁義』ジャン=ピエール・メルヴィル

奇縁で結ばれた男たち、それぞれの生き様

仁義

《公開年》1970《制作国》フランス
《あらすじ》マルセイユからパリに向かう夜行寝台車に手錠でつながれた二人の男、マティ警視(ブールヴィル)と容疑者のヴォジェル(ジャン・マリア・ヴォロンテ)が乗り込んだ。警視が寝た隙を狙ってヴォジェルは隠し持っていた安全ピンで手錠を外し、走る列車の窓を突き破って逃走した。マティはヴォジェルを追うが取り逃がしてしまう。
同じ頃、マルセイユ近くの刑務所では、翌日出所する受刑者コレィ(アラン・ドロン)が看守から宝石店強盗の話を持ち掛けられ、それを断っていた。翌日、出所した彼は昔の仲間のリコの元を訪れ、強引に大金と拳銃を奪い、車を調達してパリへと向かった。
ヴォジェルの捜索には多くの警官が動員され検問所が設けられていたが、逃げ延びたヴォジェルは、ドライブインで食事中のコレィの車のトランクに忍び込み、まんまと検問を突破した。コレィはヴォジェルの存在に気づいていて、相対した二人はどこか通じ合うものを感じて、そのまま同行することになる。
しかし、リコの手下たちが大金を取り戻そうとコレィを襲った。トランクに潜んでいたヴォジェルが手下たちを射殺するが、懐の札束は穴だらけで使えなくなり、金を巡る手下同士の相撃ちを装ってパリに向かった。
一方、パリ警視庁に戻り経過を報告したマティは改めてヴォジェル逮捕を命じられ、ヴォジェルの昔の仲間でナイトクラブ経営者のサンティに彼の情報を提供するよう要求した。
看守の話を思い出したコレィはヴォジェルに宝石店強盗を持ち掛け、厳重な警備を破るための射撃手としてヴォジェルの昔の仲間で元警官のジャンセン(イブ・モンタン)を仲間に引き入れることにする。アルコール中毒ながら仕事に意欲を見せたジャンセンは、店の下見をして警備システムを丹念に調べ上げ、それを突破するための特殊な弾丸を作った。
一方、マティも黙っている訳にはいかず、警察のイヌにはならないとマティの要求を拒んでいるサンティに一計を案じた。彼の息子を麻薬常習者だと逮捕して恫喝し、サンティも息子への愛には勝てず協力を余儀なくされた。同じ頃リコは、強盗話を持ち掛けた看守を締め上げていた。
予定通りに強盗作戦は決行された。ジャンセンの射撃の腕前で警備システムを撃破し、コレィとヴォジェルが店内の宝石を袋に詰め込み、三人は警備員を振り切って逃走した。
しかし、奪った宝石を約束していた故買屋に持ち込んでも、既に裏でリコが手を回していて、買い取ってもらえなかった。仕方なくサンティに頼むことにして彼から紹介された故買屋に出向くと、何とそこにいたのは故買屋に変装したマティだった。ヴォジェルが正体に気づいた時は既に遅く、待ち構えていた警官隊との銃撃戦になり、三人とも射殺された。マティは、自分が射殺したのがかつての同僚ジャンセンであることを知って愕然とした。



《感想》原題の邦訳「赤い輪」は人間の運命を変えるような出会いや縁を意味するらしい。裏社会でうごめく男たちが運命的に呼び寄せられ、それぞれが自らの役割を果たして「赤い輪」の中で繋がっていく。友情というより、運命を共にする連帯感のようなものか。
前半はムショ帰りのコレィと逃亡者のヴォジェルが出会い、後半は射撃の名手ジャンセンが加わり、彼の元同僚マティが逃亡者を追う。
とりわけ、コレィがトランクに潜むヴォジェルに「出てこいよ」と声をかけて出会うシーンが印象的。初対面ながら二人の間に「心で通じ合う何か」が生まれて、それを言葉にせず感じさせてしまうのが何ともカッコいい。
その後、アル中から抜け出したい元警官のジャンセンが射撃手として加わって絆は一層深まり、対峙するマティ警視は、策を弄しても逃がせない使命を背負ってしまい、やがて元同僚との悲しい邂逅が待っていた。
物語はシンプルなのだが、4人それぞれの視点から描かれているので、重層的に映る。最後まで己を全うする生き様、男の美学が見てとれ、その潔さと哀愁が心に響いてくる。淡々と描かれ、渋くて深い味わいの大人の映画という気がする。
しかしながら、リアリティ無視の荒唐無稽さ、ご都合主義は気になった。護送中の容疑者が走る列車の窓から簡単に逃走したり、アル中男が仕事のヤマを越えたら回復したり‥‥。これも軽妙な味つけと思えなくもないが。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!