『コントラクト・キラー』アキ・カウリスマキ

契約殺人と愛の力が織り成す悲喜劇

コントラクト・キラー

《公開年》1990《制作国》フィンランド他
《あらすじ》イギリスのロンドン。フランス人のアンリ(ジャン=ピエール・レオ)は長年勤めた水道局から、人員整理を理由に突然解雇を言い渡される。彼は人付き合いが苦手で、アパートと職場を往復するだけの孤独な日々を送っていた。人生に絶望したアンリは、首吊り用のロープを用意するが失敗し、ガス自殺も頓挫した。
そんな時目にしたのが「コントラクト・キラー、麻薬戦争で暗躍」の新聞記事。預金を下ろし、タクシー運転手から情報を入手し着いたのは「ホノルル・バー」という怪しげな酒場で、ボスらしき男に「殺し屋を雇いたい。ターゲットは自分自身」と依頼した。ボスは、気が変わったら連絡するよう言って、臨時の殺し屋を差し向けると約束した。
翌日、アンリはいつ殺されるかと落ち着かないまま自宅待機していたが、夜になっても現れないので、向かいのパブに行くことにして、その旨のメモをドアに貼って出かけた。アンリは慣れないウイスキーを飲み、案の定酒に飲まれていった。
そこに現れたのが花売り女のマーガレット(マージ・クラーク)。一目惚れしたアンリは、酒の勢いで彼女を口説き、住所を教えてもらう、その様子を窓越しに殺し屋(ケネス・コリー)が見ていた。
さて、部屋に帰ったアンリはドアの貼り紙が消えていることに気付き、一気に酔いが醒めた。マーガレットに恋をして死ぬのが嫌になっていたアンリは、その場から逃げ出し、マーガレットの部屋に転がり込んだ。彼女から、依頼をキャンセルすれば良いと助言され、アンリの部屋の荷物はマーガレットが取りに行くことにする。ところがアンリが酒場に出向くとビルが取り壊されていた。
一方、アンリの部屋を見張っていた殺し屋はマーガレットの顔を覚えていて、尾行して彼女の部屋を突き止めた。そして部屋に踏み込むが花瓶で殴られて気絶し、アンリと彼女は場末のホテルに身を隠した。
気晴らしに外に出たアンリが、殺し屋の酒場で見かけたチンピラ二人組を見かけて後をつけると彼らは宝石店で強盗を働いていて、誤って宝石商を撃った彼らは銃をアンリに押し付けて逃げた。強盗犯の濡れ衣を着せられたアンリは、殺し屋と警察の双方から追われる身となり、マーガレットに手紙を残し再び自殺を試みるが上手くいかず行方知れずとなった。
悲嘆に暮れるマーガレットの元に、アンリの居所情報が入る。彼は墓地近くのハンバーガー屋で働いていて、会えた二人は国外に逃げようと駅で落ち合うことを約束した。
一方、殺し屋はがんで余命1~2か月と宣告された身だった。彼の体調を心配して訪れた娘を彼は、母親にと金を渡して追い返した。
駅に着いたマーガレットは、「宝石商殺し逮捕。容疑の男は無実」の新聞記事を見つけて喜んだ。同じ頃、バーガー屋を出ようとしたアンリは殺し屋に追われ、あわやという時に殺し屋が吐血し、死期を悟った殺し屋は銃口を自らに向けて自殺した。二人がめでたく合流してエンド。



《感想》職場を解雇され人生に絶望した孤独な男は、自殺しようとしても死にきれず、自分を殺すよう殺し屋に依頼するが、直後に花売り女に一目惚れして生きる希望が見つかり、さて殺し屋からどう逃げるかと思案する。
そうこうするうち、殺人依頼をキャンセルしたくても請負組織が消えて見つからず、殺し屋は余命わずかの切迫した事情を抱えていて、主人公は事件に巻き込まれて警察から追われ‥‥それぞれの事情や思惑が絡み合ってあらぬ方向に展開する。
いつもながら強面の登場人物にとぼけた魅力があったり、少しズレていたりと妙な可笑しさがあって、本来はノワール風の緊迫感に満ちた物語なのだが、オフビートのコメディへと味わいを変えていく。何より独特のリズムで淡々と描かれる様が心地良い。
極めつけは主人公を追い詰めた殺し屋の身の処し方で、このオチに監督は思いを込めていたのだと思う。真の理由は語られないが、自らの仕事を完遂することが無意味と悟ったからなのか、それとも二人の愛に気づいたからなのか、娘を持つ死期迫る男の最期として胸に去来するものは多々あるはず。監督流の“敗者の美学”だけでなく、優しさも感じられて、しんみり爽やかな余韻になっている。
本作の哀愁とユーモアの世界は、愛の力を描いた寓話という気がする。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!