孤独な男が転落して見つけた希望
《公開年》2006《制作国》フィンランド他
《あらすじ》フィンランド・ヘルシンキにある百貨店の警備員コイスティネン(ヤンネ・フーティアイネン)は、上司からも同僚からもはじかれ孤独な日々を送っていた。彼には警備会社を起業したい夢があり、秘かに経営セミナーにも参加していて、その夢が彼を支えている。
ある日カフェで一息ついている時、一人の魅力的な女性が近づいてきて話すうち、心のときめきを覚えたコイスティネンは彼女と映画に行く約束をする。彼女の名はミルヤ(マリア・ヤルヴェンヘルミ)、マフィアのボスの情婦だった。
そんな彼に、よく立ち寄るホットドック屋の女店主アイラ(マリア・ヘイスカネン)は秘かな恋心を抱いているのだが、彼はその女心に気づかない。
コイスティネンとミルヤの距離は近づき、突然ミルヤが彼の職場を訪ね、仕事中の彼の後をついて宝石店入口の暗証番号を盗み見てしまう。
後日、再びコイスティネンの職場に現れたミルヤは、彼を車に誘い飲み物に睡眠薬を入れ、彼が寝込んだすきに鍵束を奪った。そしてマフィアの一味は宝石店泥棒を実行に移した。
警察の聴取にもミルヤをかばって真実を語らず留置されるが、証拠不十分で釈放される。しかし会社はクビになり、「警備員が共犯」の噂で周囲から白眼視された。
成り行きを見ていたマフィアのボス、リンドストロン(イルッカ・コイヴラ)は「マフィアの流儀は当然の結果までやり通すこと」と次の手を打って出た。ミルヤがコイスティネンの部屋を訪ねてそっと鍵束を返し、彼が一人鍵束を前に思案している所へ警察が踏み込み、彼は逮捕されてしまう。
裁判の判決は窃盗幇助罪で禁固2年、12か月の後仮釈放というものだった。傍聴席にはアイラがいて、服役中にも彼女から手紙が届くが、コイスティネンは読まずに捨てた。
服役を終えてコイスティネンは出所し、レストランの皿洗いの職に就いた。簡易宿泊所に住み、そこをアイラが訪ねるが彼の態度は冷たく、今度は自動車修理工場を持つ夢を語った。
やがてレストランに、リンドストロンと連れ立ったミルヤが現れる。全てを悟るコイスティネンだったが、リンドストロンは給仕長を呼んで告げ口し、彼は窃盗の前科がバレてクビになった。
コイスティネンはナイフを持ってリンドストロンを襲った。傷を負わせはしたものの、屈強な用心棒たちに叩きのめされてしまう。男の様子を覗き見ていた少年がアイラに知らせ、寂れた場所で倒れている彼の元にアイラが駆け付けた。傷ついたコイスティネンにアイラが手を差し伸べ、彼は女の情にほだされたかのように手を握り返した。
《感想》人付き合いがヘタで不器用、善良だが暗く孤独な男が魅力的な女性に出会って、初めて恋を知り犠牲をもいとわない深い愛に目覚める。しかし彼女はマフィアの情婦、甘い罠にかけられて、マフィアは追い打ちをかけるように彼を地獄へと突き落とした。
やがて利用されていただけと気づいて復讐に向かうが、返り討ちにあって傷ついた彼に手を差し伸べたのは、いつも近くで見守ってくれていた地味な女性だった。真実の愛に気づき、再出発を予感させてエンド。
「敗者三部作」の最終作とのことだが、前二作『浮き雲』『過去のない男』とはトーンが全く違う。登場人物は4人と少なく、個性的な脇キャラは登場せず、物語もヒネリがなく単純そのもの。何より持ち味の軽妙な笑いがほとんどなくて、暗くて重い。
共通しているのは、登場人物が無表情で笑わないこと。孤独な男の人生は転がり落ちていくばかりだが、絶望とか怒りの感情とかとは無縁で、男が語る前向きの言葉は空回りしているものの、ささやかな希望は捨てずにいる。そうした気持ちの強さを備えていて、単なる敗者とは言い難い。
そんな男が偽りとはいえ愛を知ることで生きる喜びを見つけ、更に転落した先で真実の愛に出会う。これもやはり一連の「応援歌」なのだと思う。
勧善だが“懲悪”の要素がないのでカタルシスはない。淡々と生きる主人公を応援したい気持ちが芽生えたならば、それが本作のメッセージといえるのではないか。
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