家族の絆を温かな情感で描く
《公開年》2018《制作国》フランス
《あらすじ》フランス西部の都市、アングレーム。弁護士のローラ(リュディヴィーヌ・サニエ)には、眼鏡士の長男ブノワ(ジャン=ポール・ルーヴ)と解体業者の次男ピエール(ジョゼ・ガルシア)という二人の兄がいて、三兄妹は月に一度、死別した両親の墓参りで集まることを習慣にしていた。
ブノワの三度目の結婚式が行われ、大きな解体作業を終え遅刻して式に列席したピエールは、スピーチで花嫁の名前を間違える失態を犯して兄弟は仲違いしてしまう。その上、解体作業から近隣住宅との深刻なトラブルが発生し、ピエールはその責任をとらされ解雇されてしまった。息子のロミュの学費が必要な時期に職を失い、誰にも打ち明けられずに職探しに奔走している。
その頃ローラは離婚調停の仕事をしていて、調停依頼人だったゾエール(ラムジー・べディア)からアタックされ交際が始まっていた。やがて同棲を始め結婚を考えるようになったローラは、兄たちに打ち明けるが彼らは素直に祝福できないのだった。
ピエールとローラは新婚のブノワ家の食事に招かれた。その席で妻のサラ(ポーリーヌ・クレマン)から突然妊娠を告げられ、しばらくは二人の時間をと考えていたブノワは困惑した態度を示し、素直に喜べない夫に怒ったサラは家を飛び出した。ブノワはサラを捜し回り、元妻二人と懇談するサラを見つけて詫び、和解した。
一方、妻サビーヌと別居中のピエールは現在の窮状を抱え込み切れず、彼女に白状し助けを求めるが、既に心が離れている彼女から優しく諭され、別れた後に泣き伏した。しかし、息子のロミュが父の失業に気づき、隠れてローラに連絡して、やがてブノワも知ることになる。
そんな中、病院で診察を受けたローラは、若くして子宮が閉経前期の状態にあり妊娠の可能性が低いと診断される。出産したサラの赤ちゃんを抱いていることができずに泣き崩れ、ゾエールに別れの手紙を残して静かに去った。
月に一度の墓参りの日、二人の兄はローラをそっと抱きしめ、そこにゾエールが彼女を迎えに現れた。その晩、ローラはゾエールが養子だったと聞かされ、二人は再び愛を誓った。
そしてピエールにも朗報が訪れる。会社で部下だったアントワーヌが退職して起業し、そこにピエールを迎えたいとオファーがきた。今まで頼りないと思っていた彼は心臓病で死にかけた過去を持ち、常に前向きに生きようと心掛けていることを知って、一緒に仕事しようと決めた。
空港にはブノワとピエール、二人目を妊娠中のサラと息子のロミュの姿があった。到着機から降りてきたのはローラとゾエール、二人は養子に迎える黒人少年を連れていた。新しい家族を囲んで皆喜びに溢れている。
《感想》ルーヴ監督の前作『愛しき人生のつくりかた』では、祖母と両親と主人公の若者、それぞれのドラマが今一つ噛み合わず、どこか散漫な印象を受けたが、本作は三人三様のエピソードを並行して描きながら、うまく絡み合ってエンディングまで駆け抜ける。そのカット割り、テンポが絶妙で、よく出来た群像劇の感がある。脚本、演出の冴えが見える。
また、家族だからこその遠慮のなさや、家族だからこそ話せないこと、互いの思いが織りなす温かい笑いにホッコリさせられた。そして墓守のような老人、団地の老婆など結構濃い脇キャラがいい味付けになっている。「嫌な妻でもいなくなると寂しいもの」は実感にして家族の真理かと思える。
本作には、ごくフツーの暮らしに隠れたささやかで多様な幸せが詰まっていて、支え合って生きる人間関係の機微が細やかに描かれている気がした。
劇中、悩みを打ち明けられないピエールを揶揄して「一人抱え込んで全て投げ出し蒸発するホームレスは日本に多い」というセリフが登場して、日本人はそんな見方をされていたのかと驚いた。一面言い得ているとは思うが。
さほど期待せずに観た映画だが、フレンチエスプリが詰まっていて、情感溢れるホームコメディだった。眼鏡店のボケなど笑いのセンスは古いし、突っ込みどころは多少あるのだが、温かな空気感と後味の爽やかさが捨て難い。
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