『2046』ウォン・カーウァイ

独自の美学で描くアジア的恋愛譚

2046

《公開年》2004《制作国》香港
《あらすじ》1967年の香港。ホテルに滞在中の作家チャウ(トニー・レオン)は、小説『2046』を書いている。小説の登場人物は失われた記憶と愛を求めて、「2046」行きの列車に乗る。そこには「何も変わらない永遠」があるというが、戻った者がいないので真実は分からない。
1966年。このホテルにたどり着いたのは、チャウが昔付き合った女ルルを訪ねてのこと。しかし2046号室に彼女の姿はなく、支配人は引っ越したと言うが実は殺されていて、部屋は改装中だった。
チャウは隣室に滞在するが、支配人の長女ジンウェン(フェイ・ウォン)は日本企業の社員タク(木村拓哉)と付き合っていて、父親に交際を反対され、やがてタクは帰国してしまう。文通もままならない二人にチャウはタクの手紙を代わりに受け取ろうと申し出た。言葉も通じず遠く国を隔てられた恋人同士に触発されて、チャウは小説を書き始めた。
1967年。やがて2046号室に謎の女バイ・リン(チャン・ツィイー)が住み始める。関心を持ったチャウは、彼女に近づき飲み友達になり、遂に男女の関係になるが、チャウはセックスの度に10ドル払うことにする。距離を置きたい男と、深入りしたものの独占できない悔しさを噛みしめる女。出会いの頃と立場が逆転していた。二人は別れバイ・リンは引っ越した。
ジンウェンがホテルに戻り、チャウはまた日本宛ての手紙を出し、日本からの手紙を届けるようになった。そして彼女がチャウの口述筆記や代筆を手伝うようになり、チャウにはいつしか想いが芽生えて、それが小説に投影される。
【小説世界】2046の世界から帰る列車の中。俺は日本人タクになり、客室乗務員はアンドロイドで、それはジンウェンだった。タクとジンウェンは愛し合うが、アンドロイドのジンウェンには感情反応がなかった。タクは「彼女は俺を愛していない」と思った。
現実に戻る。1968年のクリスマスイブ。チャウはジンウェンと食事をし、新聞社の電話で日本のタクに国際電話をかけさせ、彼女は日本に向かった。しばらくして父親の支配人から日本人と結婚するという話を聞く。
その後、バイ・リンに再会した。彼女からの「保証人」の依頼だったが、久しぶりに会った彼女は酒浸りのやつれた姿で胸が痛んだ。
1969年のクリスマスイブ。チャウは数年前にシンガポールの賭場で会った黒蜘蛛と呼ばれる女ギャンブラーのスー(コン・リー)を思い起こす。負け続けて背負った借金を彼女の力で取り戻せた。黒手袋のスーには誰にも語れない過去があり、二人は別れた。
チャウの前にまたもバイ・リンが現れる。彼女は未練にすがるが彼は去ろうとする。女は泣いて見送り、男はボンヤリした未来に向かって歩いた。



《感想》前作『花様年華』の続編ともいえる映画。
作家であるチャウは昔の女を訪ねた先で、香港女性ジンウェンと日本人タクの“裂かれそうな恋”を知り触発されて、小説『2046』を書き始める。そこは失われた愛を取り戻せる場所で、そこを目指すタクに自分を重ねた。
一方で、現実には謎の女バイ・リンとの恋愛の駆け引きが進行し、チャウの中で現実と空想が交錯していく。さらに過ぎ去った恋の数々が心の傷として胸に去来し、自分を投影した小説世界の近未来と過去を往来するうち、複雑に絡み合った過去が解きほぐれて、現実のしがらみから解放されていく‥‥という漠とした解釈はしてみたが、チャウの本心はよく見えない。混沌としたカーウァイの世界でさまよってしまうばかりだ。
『花様年華』は大人の男女二人の恋愛劇だったが、本作はチャウの女性遍歴が延々語られるので混乱は増すばかり。ストーリーを追い理解しようとするよりも、退廃美溢れる独特の世界観に浸るべき映画なのだろう。前作同様、クリストファー・ドイルらの斬新な映像、梅林茂らの音楽は魅力的だ。
そして、アジアスター競演の1本には違いなく、フェイ・ウォン、チャン・ツィイー、コン・リーら女優陣の艶やかさと、強く儚く美しく生きるその姿には魅了される。
だが本作を続編として見ると何となく蛇足感は否めない。また、前作の濡れ場なしのエロティシズム、むせ返る色気、逡巡する想いを隠した脈絡のない会話、いわば大人の純愛?ドラマに比べると、“欲望のまま”という感じで男女の機微の細やかさは今一つか。

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投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、気のままに、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 偏屈ジーサンの「My Favorite Movies 1001」を目指します。