『淪落の人』オリヴァー・チャン

失意から希望へ“最強のふたり”

淪落の人/みじめな人

《公開年》2018《制作国》香港
《あらすじ》公営アパートに住むチョンウィン(アンソニー・ウォン)は、事故で半身不随になり、車椅子で要介護の暮らしをしている。妻とは離婚し、息子はアメリカの大学に留学している。日頃の楽しみは、何かと世話を焼いてくれる元同僚のファイ(サム・リー)との世間話、そして、ネットで会話する息子の成長だけだった。
そんなチョンウィンの家に新しい住み込み家政婦として、若いフィリピン女性エヴリン(クリセル・コンサンジ)がやって来る。だが、広東語が話せない彼女にチョンウィンは苛立ちを隠せない。彼女もチョンウィンの横柄な態度と用意された部屋の粗末さに落胆した。チョンウィンはエヴリンが逃げないようにパスポートを預かった。
エヴリンは看護師の経験があり、故国で結婚解消をして香港に来たようだ。フィリピン出身の家政婦仲間の「女子会」に参加して、様々な情報と息抜きをするようになる。広東語は覚えず、バカの振りをすることが楽をするコツと教わった。
チョンウィンの妹ジンインは時折訪れるが、兄とは折り合いが悪く、エヴリンにもきつく当たった。日頃は口うるさいチョンウィンだったが、ひたむきに介護するエヴリンの熱意にほだされて英会話の勉強を始め、エヴリンも必要に迫られて広東語を教えてもらうようになり、次第に心が通い始める。
やがてチョンウィンは、エヴリンが家族のために止むを得ず写真家への道を諦めたものの、今でも心の中で夢を追い求めていることを知り、彼女の誕生日にカメラをプレゼントした。一層親密さが増した。
ある日、フィリピンの家族からエヴリンに仕送り依頼の電話が入る。エヴリンは内緒でカメラを売って、チョンウィンには「紛失して見つからない」と偽った。そのことがチョンウィンの心に疑惑を生み、彼女の外出中に私物を漁った結果、フィリピンへの送金の証拠を掴んで、二人に大きな溝が生まれる。
しかしある日、火災報知器が鳴り響く中、主人を見捨てられないとうろたえるエヴリンの姿は(それは消防設備点検だったが)、チョンウィンの心を解きほぐす。「夢よりまず生きていかないと」という彼女の言葉に、再び彼女の夢を応援しようと思い直した彼はファイに頼んでカメラを用意し、見つかったように仕組んだ。彼女はまた街中で写真を撮り出した。
チョンウィンは彼女に内緒で、カナダの大学への入学手続きを打診し、成績証明と作品が必要と知る。一方のエヴリンは写真コンテストに応募した。
エヴリンの写真がコンテストに入選して表彰式の後、チョンウィンは彼女に書類を届けるよう命じた。届け先は間もなく帰国する高名な写真家で、届けた物は彼が隠れて作った写真のポートフォリオだった。彼女は涙ながらに写真集をめくった。
エヴリンがカナダに旅立つ日、チョンウィンは彼女をバス停に見送り、街には綿毛が二人を包むように舞っていた。



《感想》家族から半ば見捨てられた身体障害者チョンウィンと、夢や故国を捨てて出稼ぎに来た家政婦エヴリン、そんな心に傷を抱えた二人が出会う。チョンウィンは言葉がうまく通じない彼女に苛立ちを募らせるが、その献身的な介護ぶりに頑なだった彼の心は解きほぐされて、やがて家族のような仲に。
写真家になりたいがその夢を追えないエヴリンのために、チョンウィンは夢を叶えたいと行動を起こし、エヴリンは「厄介者」と自分を卑下する彼に生きる勇気を与え支えようとする。
不自由と貧しさを抱えた二人に、夢を持ち続けることで支えられ、他人の夢を支えることで生きる希望を見出す、そんな関係が生まれていく。互いを思う心根が繊細に微笑ましく描かれ、思わず涙腺が緩んでしまう。
劇中、浴室で転倒して動けないエヴリンの叫び声が聞こえ、颯爽と助けに行く自分の姿を一瞬夢見るチョンウィン。このシーンに、イ・チャンドン『オアシス』を思い浮かべた。動けない、歩けないヒロインが突如健常者に変身して踊り出し思いを伝えるファンタジックなシーンに衝撃を受けたが、同様に“果たせぬ夢”の切なさにホロリとさせられた。
若手女性監督のデビュー作。二人の過去がよく見えないことなど、少し言葉足らずという印象を持ったが、語りすぎない簡潔さと抑制したタッチが却って、物語の軸をブレさせない結果に繋がった気がする。何より言葉を超えた思いやりと温かさが深く沁みる。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、気のままに、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 偏屈ジーサンの「My Favorite Movies 1001」を目指します。