『ある結婚の風景』イングマール・ベルイマン

延々続く哲学的夫婦喧嘩

ある結婚の風景

《公開年》1973《制作国》スウェーデン
《あらすじ》6話構成による。
1)無邪気さとパニック:心理学研究所助教授のユーハン(エルランド・ヨセフソン)と弁護士のマリアン(リヴ・ウルマン)は結婚して10年、娘二人と幸せに暮らしている。ある日、食事に招いた友人夫妻が激しく口論し、二人が憎み合いながら諸事情で別れられず、苦しみ傷つけ合っていることを知る。そんな折、マリアンの妊娠が発覚し、二人は話し合って中絶を決めるが、後にマリアンは激しく後悔した。
2)じゅうたんの下を掃除する方法:弁護士のマリアンは、離婚を望む初老の女性と対面し、愛のない結婚生活で感情が枯れてしまったと語る依頼人の言葉に何故か不安を感じる。その夜、ユーハンと夫婦生活について語り合うが、深刻な結果を恐れた二人はじゅうたんの下に問題を隠した。
3)ポーラ:家族が滞在する別荘でマリアンは、突然ユーハンからポーラという恋人の存在を告げられる。二人でパリに行き8か月は戻らないと言い、今までの生活を捨てたいという残酷な本音を聞く。言い争いの夜が明け、マリアンは懸命に引き留めたが、ユーハンは振り切って去った。マリアンは友人に夫を説得して欲しいと頼むが、友人たちはユーハンの不倫を知っていて彼女に黙っていたのだった。マリアンは更にショックを受けた。
4)涙の谷:1年後にマリアンの家をユーハンが訪れる。ユーハンは米国の大学に呼ばれ、ポーラとは別れると言う。マリアンも自分に正直な新たな生き方を模索していると語る。だが再会した二人は別れる決心がつかず、結局一緒にベッドに入る。しかし距離は埋められずにユーハンは去り、マリアンはまた一人になった。
5)無知な者たち:更に数年後、二人はようやく正式離婚を決断し、書類にサインするためオフィスで会う。だが二人はまたも衝突してしまう。マリアンは別れの苦しみから立ち直り、人生に喜びを見いだしつつあるが、ユーハンは反対で、出世の夢は絶たれ自信を失い、ポーラとの生活に疲れていた。彼は離婚に異議を唱え、二人は初めて感情をぶつけ合う喧嘩をした。憎悪を抱えながら離婚の書類にサインした。
6)夜中のサマーハウスで:正式離婚して数年が過ぎ、ユーハンはポーラと別れ、マリアンもいくつかの恋を経て、それぞれ新たな伴侶を得ていた。かつて本音をぶつけ合って離婚した二人だが、結婚から20年が過ぎた今、わだかまりも消えた二人は時々会っていた。友人の別荘を借りて二人で過ごす夜、自分を知り優しくなったユーハンと、エゴを捨てて初めて一つになれると気付いたマリアンは、相手を理解し本心を語り合い静かな時を過ごすのだった。不倫関係のようだが、確かに愛し合っていると実感している。



《感想》専門職に就いて平穏な家庭を持った夫婦は、夫の浮気がもとで別居するが、互いの未練とエゴがぶつかり合ってくっついたり離れたり。しかしようやく正式離婚してそれぞれ新たな家庭を持ってみると、今度は“不倫”の関係で愛を確かめ合っている。何とも面倒臭い夫婦である。
そもそも“愛する喜び”には大きく静と動の二通りがあって、一つは平穏な愛に心が満たされた幸福で、過ぎたる平和にあっては不満の種を探したくなるもの。二つ目は非日常の刺激がもたらす幸福で、とかく媚薬に惑わされ方向を見失いがちなもの。本作のラストも、単に静から動を求める関係にシフトしただけのように思えた。
しかしそう単純ではなさそう。誰しもが持つ高慢さとエゴ、思いやりを装った自己保身と駆け引き、性関係に潜む深い絆を描き、結局「互いにエゴを捨て理解を深め成熟した大人同士の愛」に帰着させて、映画としては夫婦の機微やら性の深淵を描きたかったのか、と思う。
だが何せベルイマンなので、愛を心底から信じているとは思えず、大人にズルさは付き物だから、愛ある関係を演じているだけのようにも思えてくる。
元々テレビドラマとして作られているので表現は難解ではないが、通俗的なのか深いのかはよく分からない。
約50分×6話の長丁場がほぼ二人の会話劇で、それも息詰まるような長回しが続き、その脚本と演出力の凄さ、主演二人の熱演には圧倒される。

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投稿者: むさじー

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