戦時下の抗争をノワール風に描く
《公開年》1969《制作国》フランス
《あらすじ》1942年、ナチス・ドイツ占領下のフランス。ジェルビエ(リノ・ヴァンチュラ)はレジスタンスの疑いでドイツ軍に逮捕され、収容所に送られる。脱走を計画していた矢先、ドイツ軍に連行されたホテルで見張りの兵士を殺害して逃走し、駆け込んだ床屋の計らいで難を逃れた。
マルセイユで同志と合流したジェルビエは、密告した裏切り者を処刑した。同志の一人、フェリックス(ポール・クロ―シェ)は旧友で遊び人のジャン(ジャン=ピエール・カッセル)をレジスタンスへと誘い、他に女闘士マチルド(シモーヌ・シニョレ)、ビゾン(クリスチャン・バルビエ)、マスク(クロード・マン)がいた。レジスタンスの指導者は表向き哲学者で美食家のリュック(ポール・ムーリス)で、彼はジャンの兄だった。
ジェルビエがロンドンの自由フランス本部で活動している頃、フランスでフェリックスがゲシュタポに拘束されたという知らせが入り、ジェルビエはパラシュートで落下するという危険を冒しながらフランスに帰国した。一方、マチルドはパリからリヨンに移り、タロワール男爵の領地を滑走路として借りて、イギリスからの応援を飛行機で受け入れた。
マチルドを中心にフェリックスを救出するための計画を立てるが、ジャンは辞任してゲシュタポに匿名の手紙を書いて逮捕され、収容所のフェリックスに接触する道を選んだ。マチルドらはドイツ軍兵士に変装して、偽の移送通知書を持って収容所を訪れるが、診察した軍医の反対で計画は失敗に終わった。断念したジャンは瀕死状態のフェリックスに自殺用の青酸カリを与えた。
ジェルビエはゲシュタポに指名手配されていて、まもなく逮捕された。ドイツ軍の処刑は試射場で行われ、走って銃撃を逃れれば次の処刑まで生きられるという。ジェルビエが走って逃げた先には地上からのロープが待っていて、知略に長けたマチルドらの手で救われた。
その後、ジェルビエが暮らす隠れ家をリュックが訪れ、マチルドが逮捕されたと聞かされる。娘の写真を持っていたマチルドは、それをネタに脅迫されていて、彼女の釈放後に同志2名が捕まったと知る。ジェルビエはマチルドを処分するよう指示し、それまで行動を共にしてきたビゾン、マスクは反対した。そこに指導者のリュックが現れ、彼女は死を望んでいると伝え説得した。
パリの街を一人歩くマチルドを4人は車で待ち受け、路上で射殺した。
その後、マスクは自殺、ビゾンは獄死、リュックは拷問死、ジェルビエは「今度は走らなかった」と、それぞれ非業の死を遂げたことが記される。
《感想》あらかじめフランスの歴史的背景を承知しておかないと戸惑うような気がする。
1942年のフランスはドイツの占領下に置かれ、政府もドイツ軍に支配されていたが、一方で徹底抗戦を主張するレジスタンス運動が起こり、本来の敵国ドイツだけでなく、フランス政府と同胞であるレジスタンスが敵対するという三つ巴の構図が生まれていた。
だから、護送する同胞の兵士や陰でレジスタンスを支援する床屋には微妙な感情が流れ、たとえ同胞や仲間であっても裏切ったならば即「敵」になる、そんな緊張状態がさりげなく描かれている。
前半はジェルビエ目線で描かれるが、レジスタンス活動に入ると活動家7人の男女それぞれのキャラが立ってきて、愛憎や葛藤が絡んでの群像劇になる。それはメルヴィルがそれまで描いてきたノワールの世界「裏社会に生きる者たちの友情と裏切りと哀しい宿命」に通じるものがあり、同じように淡々とスタイリッシュに仕上がっている。
冒頭「イヤな思い出だ。だがようこそ。今やはるか彼方の青春時代よ」という甘い響きの言葉が流れるが、メルヴィル自身レジスタンス活動家だった過去があり、「忌まわしい時代だが、最も輝いていた」青春時代を懐かしむ思いがあったようだ。戦後20年余を経てやっと客観的に見られるようになったのかも知れないが、史実ベースの重さからか、観客にはノワールを超えた非情で悲惨な現実世界しか見えてこない。やはり回顧を超えた渾身の力作という気はする。
※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。