米国移民政策で引き裂かれた家族の物語
《公開年》2021《制作国》アメリカ
《あらすじ》アントニオ(ジャスティン・チョン)は韓国で生まれ、3歳のときに養子としてアメリカに連れてこられた。今はキャシー(アリシア・ヴィキャンデル)と結婚し、彼女の連れ子のジェシーと3人で暮らしている。
キャシーは妊娠中で、アントニオはタトゥーの彫師の収入だけでは不十分だと職探しをしているが、彼には窃盗の前科があるためうまくいかない。キャシーの病院を訪れた際、アジア系女性パーカー(リン・ダン・ファム)に出会う。
娘ジェシーは継父アントニオによく懐いているが、赤ちゃんが生まれても「私を捨てない?」と不安を抱き、そんなジェシーを彼は愛しく思っている。しかし、キャシーの前夫の警官・エースは娘に会わせろと執拗に電話してきた。
ある日、家族三人がスーパーで買い物中、警ら中のエースと出くわし、同僚警官デニーとの揉め事から逮捕されてしまう。更にICE(移民局)に移送され、国外追放命令を受ける。理由は2000年制定の「養子に市民権を与える法律」に従って、養親が市民権を得る手続きを怠ったためで、前科があることも強制送還の理由の一つだった。
弁護士から、出国か控訴かどちらか選ぶよう、また弁護士費用は5000ドル必要と言われ、アントニオは街に出てタトゥーの営業を始めるが、そこでパーカーと再会する。彼女はタトゥーを入れたいと言い、理由は「もうすぐ死ぬから」。彼女はベトナムからの移民で、病気で余命わずかの身だった。
アントニオはバイク仲間の元を訪れ自らの窮状を話すと、仲間は費用捻出のためバイク泥棒を計画し、それを実行に移した。アントニオはその分け前で弁護士費用を払うが、エースとデニーはバイク仲間の倉庫を訪れ、バイク窃盗を疑い出した。
アントニオから養父母は死んだと聞かされていたが、養母スザンヌは生きていることが分かり、それを隠していた彼に不信感を抱いたキャシーは、ジェシーを連れて家を出た。失意のアントニオは聴聞会への出席を求めてスザンヌを訪ねるが拒絶された。
キャシーは女の子を出産した。そして聴聞会の日、そこには意外なことに、スザンヌとエースが姿を見せた。しかし、肝心のアントニオが現れない。法廷に向かう途中、エースの同僚デニーらが裁判に行かせまいとアントニオを捕まえ暴行を加えていたのだった。
心身共に疲れたアントニオは森へ行き、バイクでバイユー(入り江)に飛び込むが死にきれず、そこで生みの母の幻影を見る。数日後、亡くなったパーカーの葬式に参列した。
強制送還を覚悟したアントニオは、仲間に別れを告げ、キャシーに現金を届けた。そして空港で警備員に付き添われ、ゲートに向かうアントニオ。そこへ赤子とジェシーを連れたキャシーが「一緒に行く」と現れ、追ってエースも駆け付けた。しかしアントニオは「ここに残れ」と言って去りかける。背後からジェシーの「行かないで」という叫び声が聞こえ、戻ってきて彼女を抱きしめるアントニオだったが、警備員に引き離され一人韓国へと旅立った。
《感想》韓国生まれのアントニオは30年以上前にアメリカに養子に来たが、後に「養子に市民権を与える法律」が制定された際、その手続きを養親が怠っていて、加えて前科ある者は強制送還という国の移民政策によって国外追放命令を受ける。アメリカの非情な移民政策で引き裂かれた家族の物語が軸にある。
一方、生まれてくる赤子にアントニオの愛情を奪われ、自分は捨てられるのではないかと恐れる娘ジェシーの切ない心情が、アントニオの実母との苦い思い出、外国に養子に出された過去と重なり、親に捨てられた者同士の共感が見えてくる。
また、ベトナムからの移民女性パーカーは故国脱出時の事故で母親を失い、今は自らも死に直面している。祖国に母の面影を残しながら帰る祖国はなく、アントニオとは国を追われた者同士の切ない思いが重なる。
本作が素晴らしいのは、この重層的な作りだと思う。アメリカに暮らす様々な家族の物語が垣間見える。ただ残念に思えるのは、キャラの掘り下げが今一つというところか。
アントニオは悪事に関して「反省しない人」のようだし、悪役警官だったエースの善人への心変わりがよく見えない。相棒の警官デニーのレイシストぶりはあまりにステレオタイプか。
しかしラスト、ジェシーの一言「行かないで」で全てが吹き飛ぶ。ややあざとさを感じながらも、涙をこらえるのは難しかった。
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