『料理は冷たくして』ベルトラン・ブリエ

意味不明な殺人不条理劇に浸る

料理は冷たくして

《公開年》1979《制作国》フランス
《あらすじ》地下鉄のラ・ディファンス駅。失業中のアルフォンス(ジェラール・ドパルデュー)は、ホームにいた会計係にしか見えない初老の男(ミシェル・セロー)に話しかける。ナイフを見せるアルフォンスに不安を感じた会計係は、彼を振り切るように電車に飛び乗り去って行った。
ところが駅に残されたアルフォンスが構内を歩いていると、先ほどの会計係が倒れていて、その腹にはアルフォンスのナイフが刺さっていた。殺したのが自分なのか、訳が分からないままナイフを抜いて帰宅した。
妻に話しても信じてもらえず、上階に越してきたという新しい入居者に挨拶に行くと、越してきたのは警部(ベルナール・ブリエ)で、殺人事件の話をしても非番だからと相手にしてくれない。
翌日アルフォンスの妻が失踪し、遺体となって発見された。帰宅すると妻を殺したという殺人者(ジャン・カルメ)が訪ねて来て、妻の部屋を見せて欲しいと言い、ワインを持って現れた警部と殺人者、アルフォンスの三人で飲む。
するとアルフォンスの地下鉄殺人現場を見たという男が訪ねて来た。男の要件は、自分を苦しめる男を殺して欲しいという殺人依頼だった。依頼に沿って警部と殺人者、アルフォンスの三人が現場に向かうと、現れたのは依頼した本人だった。暴れる依頼人を三人で押さえつけたら死んでしまった。
依頼人の部屋に行くとその妻が待っていた。依頼人の妻を含む四人はアルフォンス宅に行くが、依頼人の妻は狂気を抱えた淫乱女だった。自宅に帰りたいと言う殺人者をアルフォンスが送り、帰宅すると淫乱女が消えている。女は警部の部屋に行っていた。
その淫乱女が熱を出し、若い医者を呼んだ。ところが淫乱女と医者はセックスを始めて、帰ろうとする医者を淫乱女が射殺してしまう。医者の死体をパトカーに乗せて走っていると、警部宛てに緊急出動の連絡が入る。行った先は室内楽の演奏会が行われている屋敷だった。
迎え入れられた警部は「病人はあなた」と寝かされ、弦楽五重奏を聴かされるが、弦楽器嫌いの警部は発砲して脱出を図る。警部とアルフォンスが家に帰ると、殺人者が淫乱女を殺していた。殺人事件の容疑者としてヴァイオリニストが拘束されるが、疲れているから休めと助言された警部は、殺人者とアルフォンスと共に森の山荘に出向く。
そこに現れたのはアルフォンスを殺しに来た殺し屋。しかし誤って殺人者を殺してしまう。警部は殺し屋を逮捕し、若い美女(キャロル・ブーケ)が運転する車に乗せてもらうが、車が橋の真ん中でエンストし、殺し屋は川に飛び込んで逃げてしまう。警部とアルフォンスは殺し屋を追って、アルフォンスは殺し屋を刺殺し、泳げない警部をボートから川に突き落として一件落着を図った。
ボートに残ったのはアルフォンスと謎の美女だったが、実は彼女は地下鉄で刺殺された会計係の娘だった。美女は復讐者と化しアルフォンスを射殺して一人ボートで去った。



《感想》意味不明なタイトルにして展開は荒唐無稽、だが面白い。
失業男は殺人の意識もなく会計係を殺し、上階に越してきた警部に出会う。ところが失業男の妻が殺され、犯人だと言う殺人者が訪れる。そこへ失業男の腕を見込んで現れたのが自らを殺して欲しいという自殺願望男でその目的は達するが、死んだ男の妻の淫乱女が三人に付きまとう。その淫乱女が往診に来た医者を殺害し、死体を運ぼうとした矢先、事件の呼び出しを受け向かった先で嫌いな弦楽器の責苦に遭った警部が演奏者を殺し、帰宅すると殺人者が淫乱女を殺していた。三人が森の山荘に出向くと失業男を狙う殺し屋が現れ、誤って殺人者を殺し、逃げる殺し屋を失業男が刺殺する。一件落着を図った失業男は警部を殺害するが、残された若い美女は冒頭の会計係の娘で、失業男は殺されてしまう。
ごく簡単なあらすじを記すと以上だが、この異様なストーリーが異様な空間や色彩をもって描かれる。部屋の柱は赤、壁は青、ラストは真っ赤なボートだった。駅の空間も部屋も無機質で、微妙に噛み合わない会話は連続する殺人劇の不条理さとよくマッチする。
ここまでシュールに描かれると、リアリティなど問題外。もうこの不条理の世界に身を置くしかないと思えてくる。裏に秘められているだろうメッセージはよく見えないが、軽めの殺戮合戦はオシャレなノワールの味わいがある。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!