『娘・妻・母』成瀬巳喜男 1960

女優競演で重層的に描く家族の現実

娘・妻・母 <東宝DVD名作セレクション>

《あらすじ》東京の坂西家には、母のあき(三益愛子)、長男勇一郎(森雅之)と和子(高峰秀子)の夫婦とその息子、会社勤めの三女春子(団令子)が住んでいる。今はそこに日本橋の旧家に嫁いだ長女の早苗(原節子)が、夫、姑との仲がうまくいかず身を寄せていた。坂西家には更にカメラマンの次男・礼二(宝田明)、嫁いだ二女の薫(草笛光子)の5人の子どもがいた。
そんな坂西家に、早苗の夫が旅行中のバス事故で亡くなったという連絡が入る。不在中にそんな出来事があり、早苗は後悔の念に駆られつつ葬儀に参列するが、まもなく婚家から追い出されるように実家住まいとなった。早苗は死亡保険金100万円を入手していた。
勇一郎は町工場をやっている和子の叔父・鉄本(加東大介)に融資し、その利息を生活の足しにしている。更に50万円を申し込まれ、その金の用立てを早苗に頼み、彼女は承諾した。
ある日、早苗、春子に、礼二とその妻の美枝らは甲府のブドウ園に遊んだ。案内は醸造技師の黒木(仲代達矢)で、彼は早苗に好意を寄せている。東京に戻った早苗は、銀座で友人の保険外交員・戸塚に会った際、知り合いだという中年の紳士・五条を紹介されるが、これは彼女が仕組んだお見合いだった。
黒木から早苗にデートの申し込みがあり、二人して留守中の礼二のアパートに寄る。気まずい雰囲気になり、黒木は早苗にキスをするが、早苗は拒むことなく受け入れた。
一方、保母をする二女の薫は姑(杉村春子)との同居に嫌気がさし、夫と家を出たいと姑に伝えると、姑が憤って老人ホームに駆け込み騒動になる。家を出るために当座必要な20万円を早苗から借り受けた。
やがて、勇一郎は金を貸した鉄本が、工場が破産して行方をくらましたのを知る。その金は勇一郎が母親に内緒で自宅を抵当に入れて借り入れたものだった。すぐに家族会議を開いた。
家を手放すことで借金返済はできるが、弟妹たちは分配金をもらえないため、これから母の面倒を誰がみるかという話に及んだ。早苗はズバズバ言う弟妹たちが悲しかった。彼女は、先日見合いした五条が京都の茶道家元で、母付きでも結婚したいと申し出ているので、その縁談を進めたいと考えていた。
また、和子はあきを放っておけないので、自分たち夫婦で引き取ろうと勇一郎に持ちかける。しかし、あきは薫の姑に会いに老人ホームを訪れたことがあり、自分もそうしようと思っていた。
早苗は黒木を呼び出して別れた。老人ホームからあき宛てに届いた郵便物を見つけた和子は、それをそっとポケットにしまった。
そして、あきは近くの公園で、内職で子ども預かりをしている老人と知り合い、これなら自分にもできそうだと子どもを抱いてみるのだった。



《感想》還暦の母と二男三女の家族がいて、長男夫婦が家を継いで母と暮らし、二人の娘は他家に嫁いでいる。残りは夫婦だけで自由を謳歌する息子と、小姑暮らしの気ままな娘。そこに夫を亡くした長女が出戻り、姑との同居に悩んだ二女が別居を企てて、“家と結婚”の問題が噴出した。
また、長男は親戚の事業に投資して莫大な借金を背負い、財産分与と母の扶養義務の問題が生まれた。そして出戻り娘は母付きの再婚を考え、長男の嫁は何とか今までの暮らしを続けたいと願い、母は老人ホームへの入居を考える。
終戦から10年余が過ぎ安定を取り戻した時期の、典型的な中流家庭が舞台になる。まだ古い家のしきたりを残しながら、自由と平等という新しい風が吹き込む、そんな中で家族の本音と建前が飛び交う様を、成瀬は軽妙に描いていく。特に、母の還暦祝いで家族の親密さを見せながら、後には親の扶養義務をなすりつけ合う光景のギャップが印象的だ。
それと、出戻り娘が思い悩む母付きの再婚話がほろ苦い。馴染めない結婚と夫の死で出戻り、一時は若者との恋愛に心ときめかせながら、再び不本意な選択をする展開には少し切ないものがある。
タイトル通り女性目線の映画で他愛ないホームドラマだが、演者と演出によって、こうも感情の機微が豊かになり、味わい深い世界が生まれるのかという見本のような映画。当時の東宝のオールスターキャストで、雰囲気や世界観はどことなく小津『東京物語』を彷彿とさせる。

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投稿者: むさじー

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