『ある過去の行方』アスガー・ファルハディ

不倫を巡る疑惑と葛藤のメロドラマ

ある過去の行方

《公開年》2013《制作国》フランス
《あらすじ》イランに住むアーマド(アリ・モサファ)は、別れた妻マリー(ベレニス・べジョ)との正式な離婚手続きをとるためパリを訪れる。マリーにはサミール(タハール・ラヒム)というクリーニング店を営む恋人がいて、その息子ファッドや彼女自身の娘であるリュシーとレアと共に暮らしていた。
長女のリュシーは16歳という思春期にあって、母やその恋人に反抗的で関係は悪い。マリーの結婚は3度目で、今度の再婚に反対だと言い、サミールの妻セリーヌは自殺未遂を起こして植物状態にあると話す。更にマリーから妊娠2か月の身であることを聞いた。
アーマドとマリーの離婚は問題なく成立した。その後、アーマドとリュシーは合流し、リュシーは、セリーヌの自殺未遂の原因はサミールとマリーの不倫にあると泣きながら話し、アーマドは再婚に反対のリュシーにマリーが妊娠していることを伝えた。
アーマドがマリーに、二人の不倫が自殺の原因とリュシーが思っていることを話すと、不倫を知る前から彼女は鬱病で、ある事件が原因だと否定した。
その夜、リュシーが家出をするゴタゴタがあってアーマドが迎えに行き、サミールとファッドは、しばらく離れて暮らそうと家を出て行った。
アーマドとリュシーは、サミールの店の従業員ナイマに、セリーヌが店で洗剤を飲んだ自殺未遂の動機について話を聞く。客のドレスに付いたシミを巡る事件がありセリーヌとナイマが揉めて、サミールがセリーヌを諫めたという出来事を話した。
その後リュシーは、サミールとマリーの不倫関係を示すメールを自殺前日に、セリーヌに送ったことを泣きながら告白した。アーマドはリュシーに納得させた上でその事実をマリーに伝えると、マリーは取り乱したものの、やがて落ち着きを取り戻してリュシーを許した。
マリーはこのことをサミールに伝えた。リュシーは電話でセリーヌ自身からメルアドを聞いたと言うが、その日、セリーヌは店におらず電話に出ることもないとサミールは疑問を持った。実は、ナイマがセリーヌのふりをして教えたのだった。
ナイマは、不法就労者である自分を雇っていることから、サミールとの仲を疑われ、セリーヌに嫌われていると思い込んでいて、そんな行動に走ったのだった。サミールはナイマをクビにした。自殺にまつわる疑問はいくつも湧いてくるが、真相はセリーヌが目覚めるまで分からない。
一連の出来事を通じ、サミールは妻の鬱病という現実から逃げるための不倫に走り、マリーもアーマドを忘れるためにサミールを利用していただけで、二人とも妊娠の発覚で再婚を決めたことを認める。
アーマドはイランに帰った。サミールはセリーヌのベッドの側で、思い出の香水をつけて妻の手を握る。妻は一筋の涙を流した。



《感想》夫と別居中の女マリーが、妻が自殺未遂で入院中の男サミールと不倫して、離婚手続きに訪れた夫アーマドが、二家族の絡まった糸をほぐそうとする。しかし過去をたどり真相を探ろうとすると、そこは疑心暗鬼の闇だった。
前半、アーマドの視点で描かれる家庭内痴話の展開はやや冗長に感じられたが、隠されていた事実が小出しに明かされていくうち、視点が長女へ、妻へ、新しい男へと移り、人間が抱く疑念やら心の葛藤がサスペンス要素になって物語に惹き込まれていく。
回りくどい話だが、三人がそれぞれに断ち切れない思いを抱いていたことに気付き、それぞれが自分の罪を背負って、自分の人生を歩き出す決意を固める。
マリーは男二人との関係を断って新しい一歩を踏み出し、サミールは妻の元に帰っていく。アーマドは元妻の意思を尊重して帰国した。
嘘のベールがはがされ、大人たちの切なさ、やるせなさが見えてきて、この辺はメロドラマとはいえ、心のヒダの描き方が実にうまい。
自殺に至る真相は謎のままで、カタルシスを求めない微妙な結末だが、多くを語らないエンディングがむしろ静かな余韻を残している。
しかし、巧みなストーリー展開による優れたサスペンスとは思うものの、やや作り込み過ぎの感は否めない。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!