『護られなかった者たちへ』瀬々敬久 2021

震災、貧困、救済を巡る社会派ミステリー

護られなかった者たちへ

《あらすじ》2011年大震災からの【過去】と9年後の【現在】を行き来しながら物語は展開する。
【過去】東日本大震災が発生し、刑事の笘篠(とましの:阿部寛)は妻と息子の行方を探すために避難所を訪れ、やがて妻の遺体を確認する。多くの避難者の中には若い利根泰久(佐藤健)とまだ幼い少女・幹子がいて、共に独りぼっちだった二人は、近くにいた老女・遠島けい(倍賞美津子)の優しさに誘われて寄り添うように座った。
【現在】出所した利根は保護司に付き添われて、就職先の工場に出向き、放火の前科があることを嫌がられながらも採用された。
ある日、仙台市内の無人アパートで、三雲という保健福祉事務所課長が拘束され餓死させられるという事件が起こる。笘篠と相棒の蓮田は福祉事務所を訪れ、三雲の部下の円山幹子(清原果耶)に話を聞くが、善良な人物だという。
引き続いて似たような事件が起きる。次の犠牲者は城之内という仙台福祉連絡会副理事で、かつて三雲と同じ職場にいたことを突き止めた笘篠たちは、過去に職務上のトラブルがなかったか怨恨の線で捜査を始める。
【過去】身寄りがない幹子は利根の手を引いてけいの家を訪れ、二人は泊めてもらい、その後一緒に暮らすようになる。やがて利根は栃木の工場への就職が決まり、幹子は里親が決まって引き取られていった。
【現在】三雲と城之内が担当したケースから容疑者として、保健福祉事務所に放火して逮捕・収監された利根が浮上し、笘篠は緊急手配した。
【過去】栃木に就職してからも、利根は休暇を利用してけいと幹子に会いに来ていて、けいが金に困り食事もろくにとれない状態なのを心配し、幹子と共に生活保護申請に出向いた。そこでけいを担当したのが三雲と上崎で、上崎は現在国会議員になっている。その上司が城之内だった。
しかし、けいは生活保護を受けずに餓死してしまった。葬儀を終えた利根は火炎瓶で役所に火をつけ、その罪で服役した。
【現在】笘篠たちは幹子が利根と知り合いだったことを突き止め、利根の居場所を聞くが、利根は人を殺す人ではないと否定した。
一方、逃げた利根は国会議員の上崎の講演会に姿を現し、張り込んでいた笘篠たちに逮捕され、素直に殺人を認めた。
笘篠は上崎にけいの生活保護不支給の理由を聞いた。彼女には別れた夫との間に娘がいて、その娘はけいの存在を知らない。娘に自分の存在が知れることを恐れて辞退したのだという。
その上崎が姿を消したという連絡が笘篠の元に入り、利根に心当たりがあるというので、一緒に向かったその先はけいの家だった。そこには縛られた上崎とスタンガンとナイフを持つ幹子の姿があった。利根は幹子の犯行を阻止した。
幹子は犯行前に、SNSで「護られなかった人たちへ」と題したメッセージを残し、声をあげれば誰かが気づいてくれると記していた。
後日、笘篠は利根に「君は幹子を守ろうとした」というと、利根は震災当日、目の前で沈んでいく少年を助けられなかったと悔やむ気持ちを話した。

《感想》震災という悲劇によってもたらされた貧困、それにも屈しないで矜持を持って生きようとする人々と、「自助、共助、公助」を唱え救済の振り分けに窮する市職員が対峙する。
市民と役人、現場の役人は規則とサイフの枠内で事情に深入りせず事務的に進めるだけだから、そこに福祉制度の理不尽さがあっても見て見ぬふりをする。当然、市民の理解は得られず、制度に見捨てられた者の怒りは「公助」へと向かう。
生活保護の闇と問題点をミステリーの中に描こうとする意欲は認められるし、多くの考えるべき課題を提示しているのだが、エピソード盛り込みすぎの散漫さもあって、詰めの甘いものになってしまった。あり得ない展開もフィクションの妙味と解したいところだが、何より犯人が殺害に至るまでの憎しみの醸成、動機付けが弱い。
だから、生活保護を軸にした社会派としては斬り込み不足だし、犯人捜しのサスペンスとしては破綻があり過ぎる、そう思えた。
しかし、あの犯人になし得る犯罪だろうか? そのリアリティの無さに疑問を感じながらも、そんなリアリティの欠如より殺意に秘められた哀切の感情に目を向けて欲しいという、作り手のメッセージも感じる。
それは役者陣の熱量にも表れ、特に佐藤健、清原果耶の眼差しの強さに惹かれた。また倍賞美津子の飾らない老けぶりが温かく、阿部寛の相変わらずの不器用さが味わい深い。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、映画選びのモットーは温故知新、共感第一、ジャンル無節操、です。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマと愉悦を求めて、偏屈映画ジーサンをやっています。ボケ防止のレビューを書きながら。