『デンマークの息子』ウラー・サリム

移民排斥とテロ、それぞれの正義

デンマークの息子

《公開年》2019《制作国》デンマーク
《あらすじ》コペンハーゲンの中心街で、過激派移民によるテロが発生し多くの死傷者が出た。それから1年後、選挙を控えた極右政党「国民英雄党」党首のノーデルは移民排斥を訴え、メディアの過熱もあって支持率は上昇した。
19歳のアラブ移民ザカリア(ムハンマド・イスマイル・ムハンマド)は、母と弟と共に平和に暮らしていたが、自分たちに向けられる偏見や憎悪に怒りを覚えて、移民たちが集うハッサンの家に出入りするようになる。壁に書かれた暴力的な言葉や数々の嫌がらせは日に日に過激になり、それを主導しているのがネオナチ集団「デンマークの息子」だった。それに対抗するかのように移民の中にも過激派組織が生まれ、ザカリアもその活動に傾倒していった。
ある日ザカリアは、ハッサンからノーデル暗殺計画を持ちかけられる。運転手兼世話役としてアリ(ザキ・ユーセフ)を紹介され、山中で犯行準備の合宿を開始した。
しかしザカリアは母と弟が気がかりで、アリを伴って二人に会いに行く。母子の様子を見たアリは、ザカリアにこの仕事を断るよう勧めた。翌日、ザカリアは心の迷いをハッサンに見抜かれ、やめるよう勧めたアリも立場を疑われたが、それ以上追及されなかった。
犯行の日がきて、ザカリアは拳銃を携えてノーデル邸の二階寝室に忍び込むが、そこにノーデルの姿はなく、まもなく周囲を警官に包囲され、拳銃から弾は抜かれていることに気付く。アリは警察の潜入捜査官だった。
アリは本名をマリク(以下、マリク)といい、命を助けられたノーデルは彼に感謝を伝えに訪れ、一方ザカリアは実行犯として拘留された。
その後も移民に向けた迫害は続き、ノーデルの支持率は上がり、メディアや世論も移民排斥論を加速させていった。警察は、「デンマークの息子」にも捜査官を潜入させていて、マリクにも引き続きザカリアの動向を探るよう命じた。
マリクは、ザカリアの母を訪ね、弟を伴ってザカリアとの面会に出向いた。彼もまた被害者であることを知らされ、自らも移民のマリクは移民排斥の声に心を痛める。自分がどちら側の人間なのか思い悩んだ。
やがて「デンマークの息子」とノーデルとの繋がりが見えてきて、潜入捜査官から「ノーデルが選挙に勝った日に決行」の情報が入った時、マリクらはそれを阻止すべくノーデルに頼みにいくが、冷たく断られた。
その頃、マリクの家で事件が起こっていた。「デンマークの息子」の手によって、マリクの妻はやけどの重傷を負い、息子は射殺されていた。
一方、選挙に勝利したノーデルは壇上に上がり、多くの支持者の前でスピーチを行うところだった。ノーデルが話し始めようとしたその時、舞台の袖から歩み寄ったマリクは、銃をノーデルに向けて発砲した。



《感想》舞台は近未来のデンマークという設定だが、特に近未来というより、昨今の世界情勢を考えれば今でも十分に有り得る話かと思う。
移民問題は根が深く難しい。排斥を訴える極右は暴徒化し、移民はテロで対抗する。人間同士、民族の違いにこだわらず手を取り合うべき、そんなキレイ事で解決するものでもない。
やがて、暴徒化した極右の犯行は闇に葬られ、移民男性の復讐で幕は閉じられる。十分想像できるものだが、対立をより深めただけで、先を思うとやり切れなさを覚えるエンディングだった。
映画は、単なる善悪の対立ではないこと、答えの見えない世界であることを十分に踏まえ、対立の構図を端的に、ドキュメンタリータッチで描いている。骨太なサスペンスであり、社会派エンタメ作品なのだが、明確なメッセージを突き付け、背景にある重大な問題を、今を生きる観客に問いかけてくる。
終始重苦しく緊張感と不穏な空気の中に展開するものの、そのスリルと力強さに惹き込まれていく。長編デビュー作とは思えないほどストーリーの組み立てが巧みだ。
ただ、家族関係を盛り込み過ぎて、情緒的でもどかしい展開になったこと、テンポが悪くなったことが惜しまれる。

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投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、我流偏屈、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 「My Favorite Movies 1001」を目指します。