高齢者必見の問題作にして怪作!
《公開年》2020《制作国》アメリカ
《あらすじ》法定後見人のマーラ(ロザムンド・パイク)は「世に善人はいない。奪う者と奪われる者がいるだけ」と言う。家庭裁判所から判断能力不十分と決定された高齢者を守りケアする職務を担っていて、裁判長からの信頼を得ているが、正体は合法的に高齢者から資産を搾取する悪徳後見人だった。
ある日、上客だった老人が亡くなり後釜を探すことになったマーラは、グルの女医カレンから資産家の老女ジェニファー(ダイアン・ウィースト)の情報を入手し、認知症であるという虚偽の診断書を作成させて、本人不在のまま裁判所で自らが後見人となる手続きを済ませた。
こうして後見人となったマーラは、公私共にパートナーであるフラン(エイザ・ゴンザレス)を伴ってジェニファー宅を訪れ、彼女を施設に入所させ、残された金目のものを調べ上げて全て売却した。銀行の貸金庫にはダイヤが隠されていたが、盗品かと思われた。
ジェニファーの家の売却準備を進めているところへ、一人の男が現れる。ここは空き家と聞いて男は去るが、男の正体はロシアン・マフィアで、ジェニファーの自宅が「売り家」になっていることを聞いたボスのローマン(ピーター・ディンクレイジ)は怒り狂った。
翌日、ローマンに雇われた弁護士ディーンが現れて脅され、金による解決を持ち掛けられるがマーラは拒否した。そしてジェニファーの身元を探るうち、その名の人物は既に亡くなっていて、この老女は成りすましだと気付く。
さらに、ジェニファーを強奪しようとする事件が起き、女医のカレンが何者かに殺され、身の危険を感じたマーラはフランと共に身を隠すが、二人とも襲われマーラは誘拐された。
意識を取り戻したマーラの目の前にいたのはローマンだった。ジェニファーと名乗る老女はこの男の母親で、母親とダイヤを返すよう要求した。ところが強気のマーラは、逆に1000万ドル要求する交渉を持ち掛け、眠らされて車ごと湖に落とされてしまう。
しかし、車が沈んでいく中で意識を取り戻したマーラは、水中から脱出してフランの元に行き救い出すと、「逃げるよりカタをつけよう」とローマンのビルに赴き、彼を薬で眠らせ拉致して山道に放置した。
ローマンが目を覚ましたのは病院で、傍らにはマーラがいて、彼女はローマンを名乗る身元不明者の後見人になっていた。全てをマーラに握られていると悟ったローマンは、1000万ドルの取引を了承し、更にマーラの能力を見込んで一緒にビジネスをやろうと申し出た。
二人は後見人ビジネスを巨大事業に拡大し、莫大な資産を生み出した。しかしそんなマーラを突然の悲劇が襲う。かつて彼女によって母親との面会を拒否され恨みを持っていた男が現れて発砲し、その銃弾に倒れた。
《感想》要介護老人の後見人として働くマーラは、理路整然と搾取女の本領を発揮して悪行の限りを尽くすダーク・ヒロイン。その犯行は、全て法律に則っていて誰にも止められず、その手際はあまりに鮮やかで、共感はしないまでもニヤリとするブラック・コメディの展開だった。
ところが被害者女性の素性が見えてきて、ロシアン・マフィアに追いかけられると一気にクライム・サスペンスの世界に突入する。騙される裁判官と被害者以外は悪人ばかりという曲者たちの壮絶バトルが展開する。
何といってもマーラのキャラが秀逸で、ロザムンド・パイクがピタリとはまっている。弱い老人でも怖いマフィアでも、相手の強さにも態度を変えない筋金入りの不屈の女で、その悪女ぶりに魅了された。
そして、邦画で老人を食い物にする映画というと『後妻業の女』を始め、どうしても情が絡むが、アメリカ版搾取女は論理的でドライという、どこかお国柄を感じさせる。最後の因果応報的結末も、パートナーが同性で家庭のしがらみを拒絶しているところもアメリカ的といえるか。
また、完全に法頼みの組織型詐欺なのだが、弱者救済の制度が悪用されると搾取の手段になりかねない、そんな教訓を含んでいる。それを、突き抜けたヒロインとクセの強いマフィアでエンタメ作品に仕上げた本作は、テンポも良く文句なしに面白い。
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