『アンダードッグ 劇場版』武正晴 2020

夢追い人と家族が織りなす人間ドラマ

アンダードッグ 前編

《あらすじ》主な登場人物は次の通り。
末永晃(森山未來):元日本ライト級1位。デリヘルの送迎で生計を立ててボクシングを続けている。妻の佳子、息子の太郎とは別居している。
大村龍太(北村匠海):児童養護施設で晃と出会いボクシングに目覚めた若手ボクサー。一時悪の道に走ったが、更生し幼馴染の加奈と結婚している。
宮本瞬(勝地涼):大物俳優を父に持つお笑い芸人。番組企画ながら、起死回生と未だ半人前の自らの存在証明のためにボクシングに挑む。
明美(瀧内公美):訳ありのシングルマザーで、デリヘル嬢をしている。娘の美紅と暮らし、常連客の田淵は車椅子生活を送っている。
【前編】現在は「アンダードッグ(咬ませ犬)」として試合は負け続けの晃だが、運転手の仕事の合間、夜のジムで秘かにトレーニングに励み、夢をつないでいる。
そんな彼に別のジムの若手ボクサーでプロテストを目指す龍太が絡んでくるが、龍太の真意はまだ見えない。また、新入りの明美の送迎をしていて、常連客の田淵家も訳あり母子のようで、美紅を遊ばせながら興味を募らせていく。
引退して家族と一緒にと考える晃のところに、芸人・宮木とのエキシビションマッチの話が舞い込む。ある程度「やらせ」が絡むが、金にはなるし家族との生活再建になればと受け入れる。
一方の宮木は、親の七光りで芸人をやっているものの行き詰っていて、負ければ引退という賭けに出て現状打破を狙う。
そして試合を迎える。芸人の姿でふざけまくる宮木に合わせ、やらせの既定路線に沿って、劣勢を匂わせながら最後は実力差を見せてKO と考えていたが、予想以上に宮木が粘った。試合後、決死の覚悟で臨んだ宮木の健闘が称えられ、晃は真の負け犬になってしまった。
【後編】妻の佳子からは離婚届を突き付けられ、息子の太郎にも落胆され、晃は窮地に追い込まれた。更に勤め先のデリヘル嬢が引き抜きにあって、仕事も失いかねない。
また、明美は同居する新しい男のDVによって母子共に暴力を受け、明美自身も虐待に加担してしまう。思い詰めた明美が娘の美紅を崖から突き落とし、呼び出された晃は、救出した後で明美に自首を促した。
一方、子どもが生まれボクシングも快進撃の龍太に不運が訪れる。かつて悪の時代に半殺しに合わせた相手が車椅子の田淵で、復讐に現れ、龍太はナイフで目に負傷を負った。ボクサー生命が危ぶまれるケガだったが、龍太から晃に試合の申し入れをした。理由は「心のどこかに晃がいたから」。
試合は、若い力の前に押されながらも、晃は8ラウンド死力を尽くして撃ち合い、判定勝ちの龍太を讃えた。最後に、ロードワークする晃、寄席の舞台に立つ宮木、施設で子どもの相手をする龍太の映像が流れる。



《感想》前・後編(約4時間半)を通して観た。
脚本は足立紳で、『百円の恋』と同様、本作でもキャラの肉付けが巧みだ。
晃は自らの限界に気付きながら夢に縛られている男、龍太は憧れの存在に導かれて夢を追っている男、宮木は芸人として行き詰まり夢を模索する男。
それに、訳ありの子連れデリヘル嬢、商売ベタで気のいいデリヘル店長がいて行き詰まって道を踏み外す。皆どこか心に闇を抱え、諦観と闘いながら今を必死に生きている人たちで、現状を打破しようと抗いながら、社会の底辺でうごめいている。
また、闘う男三人はそれぞれに家族を抱えていて、夢追い人である彼らは、子どもたちや、愛する女性たちに支えられている。それら脇キャラの描き方が丁寧で、家族愛のドラマでもあった。
そんな群像劇の絡みの面白さの中に、輝きと闇、表の世界と裏の世界のコントラストを強く感じた。流れる空気は温かくもあり、痛々しく切なくもある。
そして、晃は宮木と龍太の前に立ちはだかる壁になり、同時に“咬ませ犬”として引き立て役を請け負う。闘い終えた先で晃は、殴り合うその瞬間に生まれる熱い思い、生きているという感覚、それを得るために自分は闘っていることに気付く。だから明日も生きていける。諦めの悪い男は負けても輝いていた。
エンドロールには三人三様の再出発が描かれるが、味わい深く胸に沁みる人生賛歌のように響いた。
殴り殴られる、その痛みが伝わってくるようなボクシングシーンは見ごたえ十分。家族絡みの群像劇としても十分面白いのだが、盛り込み過ぎてやや未消化という印象を持った。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、我流偏屈、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 「My Favorite Movies 1001」を目指します。