『父はフロリダを夢見て』フィリップ・ル・ゲイ

認知症の父と家族の物語

父はフロリダを夢見て

《公開年》2015《制作国》フランス
《あらすじ》フランス・アヌシーの郊外、81歳のクロード(ジャン・ロシュフォール)は一人暮らしをしているが、通いの家政婦が身の回りの世話をし、市街地に暮らす娘のキャロル(サンドリーヌ・キベルラン)が時折様子を見に来る。クロードはかつて印刷会社を経営していて、今は第一線を退き娘のキャロルが引き継いでいた。
クロードには認知症の症状が出ていて、また癖の強い性格であることからヘルパーを拒否し、何度も家政婦を追い出していたが、今回も時計紛失の嫌がらせの末に追い出してしまった。
妻とは30年前に離婚。キャロルの妹アリスはフロリダに住んでいるとクロードは思い込んでいるが、実は事故で他界していた。キャロルが唯一の肉親だが、キャロルには仕事があり、仕事のパートナーであり恋人でもあるトマ(ローラン・リュカ)がいる。家政婦が不在の間は、キャロルの息子ロバンとその恋人が世話をした。
ある日、かつて仲違いした旧友の訃報を見つける。クロードは埋葬先が自分の親族の墓地であることから、役場に墓地を変えるよう苦情を言いに行き、遺族を訪ねて悪態をついた。
やがて新しい家政婦イヴォナが来る。またしてもいたずらを仕掛けるクロードだったが、イヴォナはしたたかに対抗し屈することはなかった。
ある日、キャロル、ロバン母子とその恋人、クロードの5人で湖に旅行する。認知症の症状は益々露わになり、食事中に意味不明な言葉を口走り、トイレで閉じ込められ粗相をした。娘は心配して医師の診察を受けさせるが、それに怒りキャロルに敵意すら見せるのだった。
奇行は増え迷惑老人になっていく。夜道を徘徊し、親切な夫婦に助けられる事件が起き、キャロルはイヴォナに夜の監視も頼んだ。イヴォナは亡きアリスの部屋で寝泊まりを始めた。クロードとイヴォナの関係は良好で、クロードはキャロルから貰っている生活費から、感謝の気持ちとして多額の報酬を渡した。
気付いたらそれから1か月が過ぎていて、クロードはキャロルのアパートに滞在していた。イヴォナはお金を貰ったのを機に仕事を辞めていて、代わりの女性介護士が世話をしていた。
MRIを撮り、老人ホームを見学するが、施設に預けるか否かキャロルは決めかねていた。そんな折、妄想から同居するトマを傷つける事件が起きる。苛立ちながらも怒れず泣き笑いのトマだった。
夢の中でクロードはマイアミのアリスを訪ねていた。そこでアリスの夫から既に亡くなっていると聞かされる。そこへ現れたのは老人ホームの職員で、ドアを開けて案内された先はホームの自分の部屋だった。帰ろうとするキャロルをベランダから見送り、キャロルは庭から父を見つめ返した。



《感想》原作はフローリアン・ゼレールの戯曲で、この作品の後にゼレール自身が監督した映画『ファーザー(2021年)』が公開されている。原作は一緒だが映画の色合いはだいぶ異なる。
ドキュメンタリー風と人情ドラマ風。舞台となる英と仏のお国柄の違い。アンソニー・ホプキンスとジャン・ロシュフォールの持ち味。もしかしてゼレールは、舞台では表現しきれない目に見える心象世界を描きたかったのかも知れない。認知症で人格が壊れていく過程を、患者自身の視点で体感する映画だった。
さて本作だが、それに比べると救いと希望がある。何より温かい家族との関係が丁寧に描かれ、登場キャラがホノボノとしていて、ジャン・ロシュフォールの飄々として軽妙洒脱な持ち味がうまく溶け込んでいる。
病が進むと夢と妄想と現実が交錯し、その境界線はだんだん曖昧になっていく。ウカツな話だが、何故、飛行機の搭乗シーンが度々出るのか不思議に思っていた。フロリダに行く夢だったとは‥‥。
そして、フロリダの娘を訪ねた末に現実を知らされ、ドアを開けたら老人ホームの廊下に繋がっていた。もはやファンタジーだが納得してしまう。
ラストはホームのベランダから娘を見送る父と、庭から父を見つめ返す娘。寂しいけれど、この距離が二人の平穏な日々には必要なのかも知れない。余韻は決して悪くない。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、我流偏屈、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 「My Favorite Movies 1001」を目指します。