『監督失格』平野勝之 2011

女優と監督、その愛と業

監督失格

《あらすじ》AV女優林由美香は2005年6月に亡くなった。その10年前、当時不倫関係にあった監督平野勝之は彼女の素顔を撮っていて、その後二人の別れや彼女の死、更にもがき苦しんだ5年間を総括して一つのドキュメンタリー作品に仕上げた。
タイトル『監督失格』は、二人が喧嘩をした際、ドキュメンタリーとして撮らなければならない時にカメラを回せなかった平野のナイーブさを指して、由美香が揶揄した言葉である。
1995年、由美香26歳、平野32歳。熱愛関係にあった二人は、東京から北海道・礼文島までの自転車旅行に出た。由美香は疲れたと何度も涙しながら1か月をかけて到着する。
サイクリストたちのキャンプに参加し、彼らが苦労しながら何年間も走り続ける意味と、ボロボロになってもこの業界にいる自分とを重ねた。
1997年、旅の記録は完成したが、二人は破局を迎える。その後、平野は冒険映画の旅に出て「北海道自転車三部作」を完成させるが、撮影対象を見失っていた。しかし別れた後も二人は、仕事の付き合い、昔の男、いい仲間という関係を保っていた。
2005年4月、平野はAV史を語るドキュメントを企画し、由美香に撮影の申し入れをして了承を得た。当時、由美香は年下の彼氏にハマっていて、結婚を意識していると話していたが、その彼氏とはまもなく破局した。
同年6月27日は由美香の35歳の誕生日。平野は撮影する予定で由美香のマンションに行き、チャイムを押すが応答がなく、電話するが誰も出ない。異変を感じた平野は由美香の母親に電話をして来させ、合鍵で部屋に入る。
由美香は死亡していて、平野が遺体の第一発見者となった。泣き叫ぶ母、走り回る飼い犬、しかし平野は努めて冷静に振舞った。ドアを開けた時から撮影を始めて、発見の後も玄関に置いたままのカメラを止めることはなかった。遺体発見の一部始終を偶然に記録していた。
死亡推定時刻は6月26日夜10時頃で、酒と睡眠薬による事故死と判断されたが、新聞では「自殺」と書き立てられた。
由美香の母は、カメラで撮影した平野に疑惑を抱いて、ビデオテープの映像は封印するという「合意書」にサインさせられた。平野自身は彼女から撮れと言われている気がしたし、別れの実感が湧かず、彼女が自分に取り憑いているように思えた。
それから5年が経ち2010年、由美香の母から映像使用の許可が出た。平野自身も立ち直るべく、編集作業を進める中で自分の気持ちに気付いていく。「別れたくないと心が叫んでいる。俺の方が彼女に取り憑いていた」と。
由美香の死を受け入れ決別しようと決めた彼は、「行っちまえ」と泣き叫びながら自転車で夜の街を疾走した。



《感想》かつて心底惚れ抜いた女がいた。女が本当に愛してくれていたかは分からない。その女は他の男に走って、そして死んだ。
死の淵に立ち会った男はその後5年間立ち直れないでいる。過去を振り返り、彼女は自分にとって何だったのかと考えると、やはり天使だった。
思い出は美化され増幅されて立ち現れる。ピュアな愛だったのか、虚飾に彩られた思い出に過ぎないのか、それも分からない。
そんな私小説ならぬ私映画であり、そこには少し嘘が混じって、美化された自分と彼女がいる。心のすれ違いを埋めるための嘘、些細な嘘でも繋がっていたいという願い、蜜月期の二人からはそんな思いが伝わってくる。
だが永遠の別れが訪れる。その時、かつてドキュメンタリストとして大切なシーンが撮れず、女から「監督失格」と言われた自分を脱却できた。遺体の第一発見者となった時の自分、それがプロの意識を植え付けてくれた。
もしかしたらその時には、愛は消えていたのかも知れないし、突然の出来事にプロの監督である自分が覚醒したのかも知れない。いずれにしても、女からの贈り物であることは確かだ。
しかし別れた後の監督からは、喪ったという漠とした思いは伝わってくるものの、切実な思いの実体というか真の感情が観客には見えてこない。ラスト、泣き叫びながら自転車を疾走させ、5年間封印してきた感情を解放する衝撃のエンディングにも、作為と演出を見てしまった。

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投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 「My Favorite Movies 1001」を目指します。