『少年の君』デレク・ツァン

社会の闇に抗う壮絶な純愛

少年の君

《公開年》2019《制作国》中国、香港
《あらすじ》2011年、中国の安橋。女子高生チェン・ニェン(チョウ・ドンユィ)は、全国統一入試を前に勉学に励んでいたが、ある日同級生のフーが突然校舎から飛び降り自殺を図った。彼女は同級生のウェイらのグループからイジメを受けていた。
警察の捜査が始まり、ニェンは事情を訊かれるが口を閉ざしたままで、それからのウェイ一味のイジメの標的はニェンに代わり、執拗な嫌がらせを受けるようになる。
そんなある日、ニェンはチンピラのシャオベイ(イー・ヤンチェンシー)が男たちにリンチを受けているのを目撃し、警察に通報しようとして巻き添えを喰ってしまう。シャオベイはニェンを家まで送ってくれたが、壁には彼女の母親を中傷する借金取りの貼り紙があって、彼はニェンの家庭事情を察した。ニェンの母はインチキ化粧品の行商をしていて、借金を抱えていた。
他の同級生がイジメを見て見ぬ振りする中でニェンは、警察のチェン・イー刑事(イン・ファン)に一味の悪行を告発する。その結果一味は停学処分になったものの、更なる報復が待ち構えていた。
一味はニェンの帰宅を待ち伏せて襲いかかり、逃げたニェンはシャオベイの家に向かった。ニェンはシャオベイにボディガードになってくれるよう頼み、ニェンはそれを引き受けたシャオベイと一緒に暮らし始めた。
ある時、シャオベイはニェンに過去を打ち明ける。13歳の時に父親が逃げて、母は彼を捨てて新たな男に走ったが、男に捨てられ行方知れずだという。ニェンは涙を浮かべ、大学に受かったら一緒にここを出ようと話した。
ある日、シャオベイが婦女暴行の容疑者の一人として警察に連行され、取り調べを受けている間に、ニェンはウェン一味に捕まり凄惨な暴力を受けてしまう。警察から釈放されたシャオベイは、ボロボロになったニェンを見て憤り、その髪を短く刈って、自らも短くして二人は記念写真を撮った。
大学受験の日は雨、ぬかるんだ土砂から女性の変死体が発見され、それはウェイだった。ニェンは容疑者として連行されるが証拠不十分で解放され、翌日も試験に臨んだ。試験が済み、刑事の尾行が付いているニェンを、シャオベイは強引に引きずり込んで暴行を加えるかのような芝居をして、その場で逮捕された。
実はウェイを殺したのはニェンで、これ以上悪事がバレると受験できなくなるので黙っていてくれと懇願するウェイと言い合いになり、階段から突き落としてしまったのだった。事情を知ったシャオベイは死体を始末し、罪を被ることに決める。
しかし、チャン刑事は二人の真意を見抜いていて揺さぶりをかけ、耐えきれなくなったニェンを拘置所のシャオベイに面会させる。二人は言葉を交わすことなく微笑み、見つめ合って涙を流した。ニェンは禁固4年の判決を受けた。
2015年。出所したニェンは英語学校の教師になり、事情を抱え寂しそうな子どもに寄り添う。その姿をシャオベイは後ろから見守っている。



《感想》女子高生とチンピラの若者は共に親の庇護下にはなく、信頼できるのは自分だけ。そんな孤独を抱えて身を寄せ合ううち、お互いがかけがえのない存在になっていく。そしてある事件をきっかけに二人は覚悟を決め、二人だけが信じる未来に向かって走り出す。
社会的弱者の男女が出会って惹かれ合うというストーリーはベタともいえるが、映画からはそれを上回る熱気と感性のきらめきが感じられる。凄惨な暴力描写で強引に惹き込むあたりは相当にパワフルだし、遡って真相を明かしていくミステリー的な語り口は巧みで、惹き込まれてしまった。
特に拘置所での面会シーンが沁みる。言葉を交わすことなく微笑み、互いに見つめ合って涙を流す。言葉にならないほどに思いが溢れて。二人の表情だけでこれほど説得力を持って響くとは‥‥。観客も涙腺決壊となる。
本作は、格差社会、受験競争、いじめといった現代中国が抱える社会問題がテーマだが、純愛ラブストーリーと絡ませたそのバランスが絶妙で、重く息苦しいのに清々しさが残った。
エンドクレジットに、いじめに関する啓蒙的なメッセージが流れ、やや余韻を削ぐように感じたが、検閲の厳しい中国のことなのでその対策のようにも思えた。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。