『小説家として』マヌエル・マルティン・クエンカ

悩める文学中年の狡猾な企み

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《公開年》2017《制作国》スペイン
《あらすじ》2017年夏のセビリア。文学講演会に来ている小説家志望のアルバロ(ハビエル・グティエレス)は、文学賞授賞式に駆け付けた。妻で作家のアマンダ(マリア・レオン)が受賞したためで、アマンダは夫と子どもへの感謝の言葉を述べた。
ところがアルバロが帰宅し、飛び出した飼い犬の後を追って走り、覗いた車内に見たのは妻の浮気現場だった。
それ以来、アルバロはアパートを借りて別居を始めるが、本業の公証人役場に勤務はするものの仕事に打ち込めず、上司から休養を言い渡される。仕事の傍ら通っていた文学セミナーでも講師から酷評される。「インスピレーションは人生の中にある。目と耳を使え」と。
アマンダとも言い争いになり、そんな妻への感情を書いたら講師から褒められた。「大事なのは現実を生きる、見る、聞くこと」と。
そこでアルバロは、住んでいるアパートの住人に関心を向けた。救急車で運ばれた老人がいて、隣の外国人夫婦の会話も聞こえてくる。そこで親切な管理人の女性から情報収集し、隣室の会話はスマホで録音した。
病気がちの老人はモンテロといい、元軍人の年金生活者で一人暮らし。隣の夫婦は夫がエンリケ、妻がイレーネといいメキシコからの移住者で、夫が解雇の危機にあるようだ。管理人の女性はローラ(アデルファ・カルボ)といい、夫からは相手にされず欲求不満がある。そこにつけ込んで男女の関係になっていく。
モンテロとは彼の趣味のチェスを介して近づく。彼は銀行に口座維持費用を払うより自宅でと全財産を金庫に保管し、拳銃を所持していることを知る。
一方、エンリケは解雇の危機にあって、労働契約書の相談をする弁護士を探していた。弁護士を装ってエンリケに近づいたアルバロは相談に乗って、裏で友人の弁護士に相談して「裁判になれば勝てる」とお墨付きをもらった。
ところがエンリケには「裁判では勝てない」と嘘を言い、その後の展開に聞き耳を立てた。すると「自殺か、銀行強盗か」という深刻な話になった。
エンリケは解雇され、夫婦喧嘩が始まった。イレーネの相談を受け話していると管理人ローラが嫉妬する。ローラから無職を疑われ、上司に確認すると「休みではなく解雇」と告げられ唖然とした。アルバロは一計を案じた。
誕生祝を装ってモンテロを訪ね、金庫内の拳銃を話題にして、さりげなくダイヤル番号を覚え、エンリケ夫妻との会食中にその話をさりげなく伝えた。
エンリケ夫妻は引っ越すと言い、荷造りのためにアルバロから工具箱を借りに来た。工具箱が返されてまもなく、モンテロの死体が発見され、アルバロが容疑者として連行された。凶器になったアルバロのドライバーが証拠になり、保釈なし拘留となる。刑務所行きの車内で「やられた!」と犯行を絶賛して高笑いした。
刑務所に入っても囚人同士の喧嘩をけしかけ、書く喜びに目覚めたように、その揉め事を執筆している。



《感想》ベストセラー作家の妻を持ち、自らも小説家志望のアルバロは、傑作を書こうと日々努力するものの、彼には才能も想像力もなく、文学セミナー講師から言われた「インスピレーションは人生の中にある。目と耳を使え」という助言に従い、近隣住人の暮らしに関心を向けた。ただそれだけでは収まらず、彼らの生活に関わりを深めて‥‥。
リアルで面白い小説を求めて男の悩みは尽きない。文学によって人生の深淵を求めるはずなのにインスピレーションが湧かず、次第に面白いドラマを作り出そうとして、人を欺き陥れる犯罪の動機が生まれていく。
監督いわく「悪はサイコパスから生まれるのではなくて、どうしようもない状況に追い込まれた人間が起こすものではないか」。然り。
可笑しいけれど笑いどころの少ないブラックコメディで、犯罪絡みのサスペンスと見るとさほど上質なものとは思えないが、文学やら世間の評価とかを揶揄するコメディとして見ると結構面白い。
強引で無理も見えるがうなずけるものがあるし、このシニカルな目は一方で、評価抜きの“書く喜び”という真の幸福を呈示しているのかと思える。
そして主人公アルバロを演じたハビエル・グティエレスの怪演が素晴らしい。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画選びのモットーは温故知新、共感第一、我流偏屈、です。感情を揺さぶられる、そんな映画との出会いがファン最大の喜びだと思っています。 「My Favorite Movies 1001」を目指します。