『ぼくが旅に出た理由』ラファエル・モンセラーテ

マザコン男の純真さが幸せを呼ぶ

ぼくが旅に出た理由

《公開年》2019《制作国》アメリカ
《あらすじ》三人兄弟の末っ子ピール(エミール・ハーシュ)は5歳の時に、
父親が母親を見捨て、兄二人を連れて家を出て以来、ピールを溺愛する過保護の母親と二人で世間から孤立して暮らしてきた。
25年が過ぎてピールが30歳になった今、母親が亡くなり、プール付きの大きな家は残されたがローン付きで、返済に困ったピールは部屋貸しを始める。
最初に訪れたのは流れ者でギャンブラーのロイ(ジャック・ケシー)と、その相棒で密造酒を作るメキシコ人チャック(ジェイコブ・バルガス)、次いでチャド(ギャレット・クレイトン)が加わる。
働く気はなく遊ぶ気満々のロイは、ピールに酒と女を教えようとパーティーを企画し、チャドはゲイの友達とチア女子を集め、近くに住む東洋人女性チュンジャとジュウンも参加した。チュンジャはピールに好意を持っているようだ。ところが、パーティーはにぎやかに盛り上がったものの、酒の勢いからロイとピールの間にチュンジャを巡るトラブルが起きて、仲違いが生じてしまう。
そしてある日、将来不安からか兄たちへの思いが高じて、ピールは25年会っていない二人の兄を訪ねることにする。
ネット検索で長兄ウィルを探すと、彼は堅実な仕事を持ち、黒人の妻サラと二人の娘に恵まれ幸せな家庭を持っていた。ところが突然ピールが現れたことにウィルが戸惑い、夫婦喧嘩になって、気まずくなったピールはそっと家を出た。父が書いたが出さなかったというピール宛ての手紙を受け取る。
次に訪ねた次兄サム(シャイロー・フェルナンデス)は、ドラッグ漬けの自暴自棄の暮らしをしていて、ピールに怒りをぶつけ追い返した。ところが翌日も訪れたピールの純真な思いに心が折れて、帰ろうとするピールの車に乗り込んで来た。車中「何か分からないが大した奴だ」とつぶやきながら。
それからのピールは、子どもたちにアートと泳ぎを教える仕事を始め、ロイも働きだし、チュンジャとの仲は恋人に発展した。サムは懐かしの我が家で暮らし始め、ウィル家族も訪れるようになり、25年ぶりに兄弟の交流が始まった。

《感想》三人兄弟の末っ子に生まれ、父親には捨てられ、過保護の母親と二人で暮らしてきた30歳の男ピールは、突然母親を亡くし、25年前に父と共に去った兄たちを探す旅に出る。
手には父親が作ったという、三人の成長が記された身長計を持って。それが三人をつなぐ唯一の絆のようであり、それぞれの成長を示すモノサシとしてシンボリックに登場する。
旅に出た理由はいろいろ知りたいことがあるからだ。父と母が別れた理由、父がぼくを置いていった理由、昔仲良く遊んだ兄たちはどう暮らしているのか、一人になったぼくはどう生きていけばいいのか。
長兄ウィルを除いて、登場人物は社会からのはみ出し者で、何かに依存して生きる奴ばかりだが、皆優しい。そんな人の手を借りながら、ピールの純真さが周囲の気持ちを少しずつ変えていく。他愛のない展開だが、登場キャラは多彩だし、幸せな気分になってくる。
ホッコリする緩さと怪しげなダンスに、何となく90年代初頭のハル・ハートリーを思い出した。描く世界が家族間の葛藤とか自分探しとか似ているようなのだが、本作には陰や毒が見えない。
幽閉された不幸とか、依存に至る背景とか、それらは語られず、いい人過ぎるアウトサイダーによって救われていく。周辺キャラの造型の浅さがドラマを平板なものにしている。
だが、全てが善き方向に流れるメルヘンチックな趣きは、せわしい現代ではもはや希少だし、ホッとすることも確かだ。
現時点で監督の人物や経歴の情報は全く見当たらず、日本に紹介される最初の作品らしい。自然にシンプルに“わが世界”を提示し、全く嫌みがない作風は今後期待できるかも知れない。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、映画選びのモットーは温故知新、共感第一、ジャンル無節操、です。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマと快楽を求めて、“映画バカ”をやっています。