『KCIA 南山の部長たち』ウ・ミンホ

暗殺に至る男の闘いをノワール風に

KCIA 南山の部長たち

《公開年》2020《制作国》韓国
《あらすじ》1979年9月のワシントン、元KCIA部長のパク・ヨンガク(クァク・ドウォン)が米国に亡命し、“パク政権の腐敗ぶり”を議会証言して衝撃を与えた。韓国は1961年の軍事クーデターによってパク政権が誕生し、以来18年に渡る軍事独裁政権下にあった。物語はパク大統領暗殺事件発生の40日前から始まる。
ヨンガクが回顧録を執筆中との情報を得た韓国政権側では、パク大統領(イ・ソンミン)、キム・ギュピョンKCIA部長(イ・ビョンホン)、クァク警護室長(イ・ヒジュン)らが対応を議論していた。キムは、彼の回顧録を入手し穏便に収めると大統領に進言した。
キムはワシントンのヨンガクに会い、「拒否したら殺される」と脅し『革命の裏切り者』と題された原稿を受け取る。併せて女性ロビイストのデボラ・シムに彼の活動を抑えるよう忠告した。
帰国し青瓦台に行くと、米国が大統領の机に盗聴器を仕掛けたと大騒ぎになっていた。キムが米国大使館に抗議に行くが、「大統領の秘密口座をばらす。18年の暴走を止めろ」と逆に忠告された。後日、ヨンガクの回顧録が日本の週刊誌に掲載され、キムは大統領の怒りを買う。
クァクが大統領にヨンガク殺害を進言し、フランス駐在の自分の部下にヨンガクを呼び出させる。ヨンガクがパリに着いたという報告を受けた大統領はキムに殺害実行の打診をし、キムは受けざるを得なかった。部下に指示して外国人の殺し屋を雇い、ヨンガクは射殺され“失踪”のまま葬られた。
釜山での民主化デモが暴徒化したため対策会議が開かれ、大統領はクァクを呼びヘリで釜山の視察に飛んだ。キムは釜山騒動対処から外されたが、その夜、大統領とクァクが宮井洞で会食することを知って、キムは密かに潜入して会話を盗み聞きした。キムを中傷する二人の言葉に、無念の涙を飲んだ。
10月26日、宮井洞の宴席にキムとクァクが呼ばれた。キムは密かに陸軍本部の参謀総長を呼んで待機させていた。宴席でキムは、亡きヨンガクのために
酒を手向け、次に「閣下、辞任を。なぜ命がけで革命を起こしたか」と叫ぶと、大統領とクァクに向けて発砲し、大統領には「閣下は革命の裏切り者です」と言ってとどめを刺した。
二人を殺害した後、キムは参謀総長から「KCIAに行って政権を立ち上げるか、陸軍本部に出頭するか」と問われ、陸軍本部に向かった。そして軍法会議で絞首刑となった。
政権側の調査結果は「キムは大統領の信頼を得られない不満と不安から、二人を暗殺した」とされ、キムは裁判陳述で「目的は民主主義を回復し、国民が犠牲になるのを防ぐため」と答えた。



《感想》大統領への厚い忠誠心を持った主人公のKCIA部長は、職務に忠実であるがゆえに旧友を殺すハメになり、その上、大統領からの信頼を失っていく。理想の世界を信じて夢破れ、追い詰められて究極の決断をする。
史実に基づいたフィクションという作りで、大統領は“暴走する独裁者”として、主人公は忠誠と理想の狭間で揺れる“正義の人”として描かれ、その対立のように映るが真相は分からない。
男たちが理想や権力を求めて争い、嫉妬や挫折、怒りや悲哀を味わい無残に散っていく、そんなドラマになっている。
監督が目指したのは『ゴッドファーザー』の世界とか。どこかマフィア組織の内紛を描いたノワール映画の雰囲気がある。
国家権力とマフィア、どの世界も似たようなもの。権力者とその側近の愛憎や確執を描いて、どの社会にもありそうな普遍的な対立の構図にしようとした、そんな狙いか。
史実を基にスリリングなエンタメ映画に仕上げた、その手腕は確かだ。
欲を言えば、忠誠心とはいえ旧友を殺さざるを得なかった葛藤や苦悩、この辺の心の揺れをもっと丁寧に描いて欲しかった。史実ものという制約のためか淡々とし過ぎていて、情感の深みは今一つのように思えた。
とはいえ、イ・ビョンホンは、スターのオーラを消して寡黙な難役に取り組み、彼の鬼気迫る熱演と長回しの演出から生まれた暗殺シーンの迫力は圧巻だった。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!