『彼女は夢で踊る』時川英之 2019

裸の女神を巡るノスタルジックなメロドラマ

彼女は夢で踊る

《あらすじ》広島の歴史あるストリップ劇場の社長・木下(加藤雅也)は、まもなく迎える閉館とさよなら公演を前に、華やかだった時代と自らの青春に思いを馳せていた。物語は「現在」と「過去」の回想が交互に描かれる。
【過去】失恋の痛手を胸にバーで沈んでいた若き日の木下(犬飼貴丈)は、流れのストリッパーのサラ(岡村いずみ)に慰められ、どこか惹かれるものを感じて彼女のショーを観に行く。彼の心の中の何かが壊れ、失恋の痛手が過ぎ去っていった。単なる裸を超えた何かを感じた。
【現在】さよなら公演のために各地から踊り子が集まり、劇場の上階に寄宿する。この舞台で引退するベテランのヨーコ(矢沢ようこ)たち常連に混じって、初めて参加した若いメロディ(岡村の二役)は昔のサラによく似ていた。
【過去】木下はいつも劇場にいたいがために、先代社長に働かせてくれるよう直訴し、会社を辞めて劇場の下働きを始める。「踊り子には手を出さない」と念を押されて。
やがて現場の責任者になった木下は、公然わいせつの罪で度々逮捕され前科6犯にまでなった。そして踊り子を巡る色恋の揉め事は数知れずあった。
【現在】閑散としていた劇場も、閉館を聞いた客で盛り返していた。客席にはさまざまな人がいて、たくさんの人生に溢れていた。木下は、そんな話をメロディに語り聞かせるが、彼女は関心がないようだった。
かつてのサラへの思いに浸りながら、木下は踊り子のヨーコと大人の関係を持っていた。共に秘めた思いを抱きながら。
【過去】踊り子たちは旅から旅への人生で、劇場公演を終えたサラは、ヒモらしき男と一緒に次の土地へと移って行った。
そして再びサラが劇場に戻った時、木下は自分の思いを告げ、去り際に「一緒に行く」と言ったが、サラは「あなたじゃ物足りない」と笑って断り二度と戻っては来なかった。
木下は先代社長に辞意を告げるが、引退を考えていた社長から「踊り子が広島に戻る理由がなくなるから継いでくれ」と請われ、それを受ける。
【現在】さよなら公演を迎え、ヨーコがラストダンスの舞台に立つ。曲は松山千春の「恋」。木下はその舞台と満員の観客の喝さいを最後部のドア脇で観ていた。舞台が済んでスタッフにメロディのことを聞いた木下は、そんな踊り子は実在せず、自分が生み出した幻想だったと気付く。
そして誰もいない舞台を前に木下はサラの幻影と再び会話し、サラから「あなたが好きだったのは私じゃなくて、この場所」と言われる。
その舞台に立って寝転び、踊り出す木下の姿にエンドロールが重なる。

《感想》閉館を決めたストリップ劇場の社長が昔、失恋した時に出会った踊り子に魅かれ劇場で働き始めた頃を回想する。現在と過去が交互に描かれ、現実の世界には更に夢(幻想)が加わるから、境目が曖昧で混沌としてくる。全てがない交ぜになってしまうほど踊り子との過去に引きずられ混乱している、主人公の脳内映像のように思える。
そこにはストリップ愛に生きた男の哀愁があって、それ以上にノスタルジックなメロドラマがある。だが、さよなら公演のヨーコ(矢沢ようこ)のラストダンスを見て、それだけでないことに気付かされた。
“ヌードの伝道師”と呼ばれた木下は、「ストリップとは何か」と記者に問われ、はぐらかしながら曖昧に答えていたが、この踊りにはその答えがあるように思えた。アクロバティックに張り詰めた肉体に、洗練された優雅な動き、指先まで美しいしぐさ‥‥この世界に疎い私にもこみ上げるものがあった。ヨーコが演じている思いに共感している自分がいた。
もし今後松山千春『恋』を聴いたら、このシーンを思い浮かべてしまうだろう。その位のインパクトがあった。
踊り子が演じるのはさまざまな夢。そこには喜怒哀楽、切なさ、儚さや情念、いろんな感情があって、観客はそこに自分の思いを重ねそれぞれの夢を見る。
劇中「芸能の女神がこの世を照らした」というセリフがあるが、“芸能に救われる”その一端を見た思いがする。
人は弱く、縁(よすが)を求めるもの、そう思う。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、映画選びのモットーは温故知新、共感第一、ジャンル無節操、です。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマと愉悦を求めて、偏屈映画ジーサンをやっています。ボケ防止のレビューを書きながら。