『藁にもすがる獣たち』キム・ヨンフン

乾いた笑いで描くノワール群像劇

藁にもすがる獣たち

《公開年》2020《制作国》韓国
《あらすじ》映画の展開に沿って記すが、時間軸は前後する。
1)サウナのアルバイトをするジュンマン(ペ・ソンウ)は、清掃中にロッカーから大金の入ったバッグを見つけ、ただの忘れ物を装って保管室に隠す。彼は事業に失敗して金に困り、妻と認知症の母と暮らしていた。
2)空港の入国審査官をするテヨン(チョン・ウソン)は、恋人ヨンヒが作った多額の借金に追い立てられ、金融業者のパク社長に脅されている。チンピラのデメキンと共謀して、詐欺師の密航を手伝って金を奪う計画を立てるが、詐欺師を追う刑事が執拗に絡んできた。
3)風俗店で働くミラン(シン・ヒョンビン)は、DVの夫と投資で騙し取られた金の返済に苦しんでいる。ある日、中国からの客ジンテと出会い、深い仲になったジンテは死亡保険金目当てに、夫の殺害計画を提案した。ところが間違えて別人をひき殺し埋めてしまい、ジンテは罪の意識に苦しむ。
4)ジュンマンは、認知症の母スンジャと妻ヨンソンの不仲に嫌気がさしていて、加えてクビを告げられる。あの金で何とかしようと、バッグを家に持ち帰った。
5)罪の意識から警察に自首するというジンテと喧嘩になったミランは、ジンテを車でひき殺して埋めるが、途方に暮れて店の社長ヨンヒ(チョン・ドヨン)に助けを求めた。ヨンヒはミランを慰め、DV夫を巧みに殺すことを提案し、泥酔させて風呂場で殺し保険金を手に入れる。ところがヨンヒはミランに自分と同じ刺青を彫り、ミランを殺してバラバラにして始末し、金を手に入れた。
6)テヨンが部屋に帰ると恋人のヨンヒが来ていた。ニュースでは風俗店の社長ヨンヒが死体で見つかったと流れ、ヨンヒはミランに成りすまして国外に高飛びしたいと言う。そこへかつてテヨンに絡んできた刑事が訪ねて来て、テヨンが外に出た間に、酔って手を出してきた刑事をヨンヒが殺していた。
テヨンはヨンヒを殴り倒し、ヨンヒの車から金の入ったバッグを奪うと、それをサウナのロッカーに隠した。ところが、追ってきたパク社長から逃げる途中で車に轢かれ死んでしまう。
7)ジュンマンはサウナ従業員だったことからパク社長とヨンヒに追われ、二人に金を奪われてしまう。パク社長はジュンマンと母を殴り倒すが、背後からヨンヒに刺殺され、ヨンヒは家に火を着け、ジュンマンと母は辛くも逃げた。
8)ヨンヒは高飛びするべく空港のロッカーに金を入れてトイレに行くが、そこにパクの手下の殺し屋が現れ殺されてしまう。その後、空港の清掃婦がトイレでロッカーの鍵を拾い、その鍵でロッカーを開けて金が入ったバッグを見つけた。ジュンマンの妻ヨンソンだった。彼女がバッグを持ち去ってエンド。

《感想》人生につまずき金に困っている男女三人に、過去を清算して生き直そうとする女が加わって、大金を巡る争奪戦を繰り広げる群像劇。二転三転する上に時間軸が前後するので先が読めず、やがて散りばめられた伏線が回収されて繋がっていく。
監督は脚本も兼ねた長編デビュー作とのことだが、ノワールと笑いのバランス、謎解きの面白さとハラハラ感、ともに上出来。時間軸を揺らすことを含めて見事に整理された脚本は、タランティーノがお手本という話がうなずける。
そして韓国ノワールにありがちな残虐シーンはあまり見せずに、それでも次々に人が殺されるのだが、軽い笑いに包んで描かれるので、気持ちが沈んだりしない。また男女関係も、表面はドロドロだが中身はサバサバといった乾いた空気が流れていて、意外に爽やか。
内容に深みはないが、欲望に走った人たちが次々に玉砕していく様も、最後の拾得者の描き方も、欲を出すとロクなことにはならない“因果応報”と心得よ、という教訓ととれる。
燃える我が家を前にして認知症の老母が言う「生きてさえいれば、いくらでもやり直せる」。だから一獲千金を夢見ず地道に生きよう、と改めて思う。
難を言えば、ご都合主義と辻褄合わせの無理やり感が見えてしまうことか。とはいえこのコメディ風味のサスペンスは十分刺激的で、軽快でスタイリッシュな魅力に溢れている。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、映画選びのモットーは温故知新、共感第一、ジャンル無節操、です。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマと愉悦を求めて、偏屈映画ジーサンをやっています。ボケ防止のレビューを書きながら。