『桜と無窮花』河真鮮 2016

日韓で揺れる家族と平和への思い

桜と無窮花

《あらすじ》桜は日本の、無窮花(むくげ)は韓国の、それぞれ国を象徴する花で、本作は両国にかかるドキュメンタリー。
2007年1月、日本に住む韓国籍の20歳の若者が、兵役のために韓国に行った。若者の名は安祐祥、その行動を記録したのは母の河真鮮。
彼は母、姉と共に日本に来て8年。大学2年生だったが、休学をしての決意だった。外国居住者だから兵役義務免除申請という選択もあったが、彼は「日本社会に甘えている自分がイヤ。自分を変えたい」と言う。
母は幼くしての移住が子どもの負担になったことを思い、馴染の薄い母国に帰って、日韓の文化の違いに適応できるかを何より心配した。
韓国の母の実家で壮行会が開かれ、不安を抱えながら訓練所に向かった。軍隊は5週間の基礎訓練の後に、各部隊に配属されて2年間を過ごす。
しかし心配をよそに、彼が思う「人が一番早く変われるところ」は確実に彼を変えていった。
入隊当初は、ハングルがうまく書けない、意味が分からないという言葉の壁にぶち当たった。だが6か月が過ぎて一等兵に昇格する頃には、韓国語に慣れたが日本語を忘れかけ、友人に日本語を教えて親交を図るまでになる。
軍施設からは日本への国際電話が掛けられないため、寂しさはある。だが後に、数日の休暇で軍服を着て帰国して大学を訪れた際、友人に軍隊のエピソードを話す彼は得意げでもあった。「国よりも人が好き」と思えるようになった。
ある時インタビューに答えた姉が、弟の入隊目的を「将来、母が韓国で暮らしたいと言った時のために」と本音を漏らし、後に彼もそれを認めて、家族の強い絆を語っている。
一方、ドキュメンタリー映画を制作する母は、日韓で揺れる息子の葛藤を映画にして各地の上映会に出向き、青森を訪れた際はねぶた祭を取材している。1年かけてねぶた制作をする地域共同体の姿に、日本の伝統文化の素晴らしさを讃えている。そして「お祭りは平和だから出来る」とも言う。
母は無事に除隊した息子を「自分が何者なのかを見つけるために入隊し、成長した」と語る。その息子は「軍隊に入って強くなったというより大人になった。様々な気づきがあった」と述懐した。

《感想》日本に住む韓国籍の20歳の若者が、大学を休学して韓国の兵役に就いた。8年前、母、姉と共に日本に来た彼は成人を迎え、日韓の狭間で揺れていた。
日本など外国に住む韓国籍男性は、申請によって兵役義務が免除されるという道があって、将来的に滞在期間が制限されるという制約はあるが、大半がそれを選ぶ。なぜ若者は志願入隊という道を選んだのか。
当初「軍隊という体験を通して自分を変えたい」と言っていたが、やがて「将来の母のために」と心情を漏らしている。
母親のために厳しい軍隊生活を選んだ韓国籍の若者。家族の強い絆を語る彼の言葉に、私たち日本人が忘れかけているものがあるように思えた。終始笑顔を絶やさない若者の健気さがまぶしく映る。
また母である監督は、日韓で揺れる息子の葛藤を描いた映画を制作し、上映会で訪れた青森でねぶた祭を取材している。
祭りを通して地域の人々が交流する姿を描き、日本の伝統文化が持つ素晴らしさを語りながら、一方で「お祭りは平和だから出来る」とも言う。日本に暮らす者として、軍隊も兵役もない平和の尊さを思う。
映画としての完成度はイマイチだが、気づかされるものがある。
それにしても、韓国のリアルな軍隊映像がよく撮れたという気がする。情報がないので憶測に過ぎないが、韓国側にとって志願入隊を啓蒙する意味合いがあったのではないか、と思った。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、映画選びのモットーは温故知新、共感第一、ジャンル無節操、です。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマと快楽を求めて、“映画バカ”をやっています。