呪縛を解き放ち自由に生きる
《公開年》2020《制作国》アメリカ
《あらすじ》26歳になる娘オールド・ドリオ(エヴァン・レイチェル・ウッド)は、父ロバート(リチャード・ジェンキンス)と母テレサ(デブラ・ウィンガー)に窃盗・詐欺のプロになるよう育てられ、今日も郵便局の私書箱から郵便物を盗んでいる。
三人は石鹸工場敷地内の事務所を間借りしていて、毎日定時に天井から壁伝いにピンクの泡があふれ落ち、掃除しなければならない欠陥があるため安いのだが、それでも家賃を滞納し督促を受けていた。
金策のため、たまたま当たったニューヨーク往復航空券を利用し、手荷物紛失を装った保険金詐欺を目論むが、金がおりるのは6週間後というオチがついてしまう。
機内でドリオの両親は、隣に座ったメラニー(ジーナ・ロドリゲス)と意気投合し、詐欺の話を打ち明け、彼女も眼鏡屋の店員という仕事を利用した犯罪を提案して、4人での行動が始まる。眼鏡を注文した老人客の家を訪れ、部屋の骨董品類を盗もうというものだった。
ある日、高齢男性の家を訪れると、一人暮らしの老人は今にも死にそうで、「食器の音とピアノを聴きたい」という要望に応えた4人だったが、老人の口から出たのは死に際しても、我が子を気遣う言葉だった。両親から子どもとしての愛情を受けずに育ったドリオにとって、家族愛は全く未知の世界で、それは信じ難いものだった。
また、ある妊婦から頼まれ参加している「ポジティブな子育てセミナー」で、母親と赤ん坊の絆について聞かされたドリオは、母親に「ハニーと呼んで」と頼むが断られ、娘を拒否する親に怒ったメラニーはドリオを家に連れ帰る。
メラニーは「ドリオの望みを全て叶えてお金をもらう」と言う。周囲から愛され、何事も巧みにこなすメラニーは、ドリオにとって嫉妬の対象であり、“なりたい自分”でもあった。
メラニーと行動を共にし、愛される世界を知って生まれ変わったドリオは、突然、饒舌で社交的で積極的なキャラになっていく。そんなドリオの元を両親が訪れ、かつて贈られたことのない1歳から18歳まで年齢ごとの大量の誕生日プレゼントを置いていった。
更に誕生祝の食事会に招待され、両親は今までのことを詫びた。「二人は私をだまそうとしている」と半信半疑のドリオとメラニーは、お金が盗まれないか否かの賭けをする。翌日早朝に発った両親の姿と共に、前夜にはあったお金も主な家財も全てが消えていた。残された二人は笑うしかなかった。
気持ちが吹っ切れたドリオとメラニーは、プレゼントされた品物をお店に返して換金した。売り場で自然とキスを交わす二人に、「ミスター・ロンリー」の曲が重なりエンド。
《感想》両親から窃盗・詐欺の英才教育を受け、愛情を知らずに育った若い娘オールド・ドリオが、仲間になった正反対キャラの娘メラニーと出会って、愛情を注いで自分を受け入れてくれる、未知の世界があることに気づく。
メラニーは「親はあなたを利用し、あなたは親に依存している」と指摘する。利用していることがバレた両親はお金を持ち逃げして去り、気持ちが吹っ切れたドリオは、縛られて生きてきた自分を解放し、やっと自立する。
両親のドライな別れ方には驚かされるが、節目の年齢になったら群れから引き離す動物の行動のようでもあり、こんな潔い子離れも理解できなくはない。
一方ドリオは、酒場の灯りがつかないトイレに入って、暗闇から出た瞬間、突然ポジティブで社交的なキャラに変身する。真っ暗な子宮からはい出し生まれ変わったようで、単に親離れというより、社会的な女性の自立、依存しない女性像をも表現しているのではないか、そう思えた。
理屈っぽく論じることがはばかられるくらい不思議な感性で、風変わりな寓話という気がする。そして流れ落ちる泡、ドリオの奇妙なアクションなど、表現はポップでシュールだが、流れる空気はコメディとは思えない寂寥感に満ちている。ドリオの切ない思いに惹き込まれていく。
ラスト、親と別れた切なさより、新たな関係に希望を見出したのだろう、湿っぽさはなく二人とも優しさに溢れていた。誰にもあるそれぞれの人生、呪縛や孤独から抜け出して生き直そうというメッセージに思えた。
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