切なさと優しさに満ちた残酷な青春
《あらすじ》プロボクサー兼ジムのトレーナーの瓜田(松山ケンイチ)は、いくら努力しても試合は負け続きで、ジムの後輩に軽んじられている。一方、瓜田の勧めでボクシングを始めた後輩の小川(東出昌大)は、天性の才能で瓜田を追い抜き、日本チャンピオンを狙う位置にいた。
小川の恋人・千佳(木村文乃)は、瓜田の幼馴染にして初恋の人で、瓜田は今も好意を抱いているが、小川を羨みながらも、二人の関係を応援することしかできなかった。
欲しいもの全てを手に入れ順風満帆の小川だったが、ボクシングの影響で脳機能障害が現れ、医者に競技を止められる。千佳は引退して欲しいと頼むが、タイトル戦を前にした小川は聞き入れない。更に瓜田に説得を頼むが、やめろとは言えないと突っぱねられる。
ある日、ゲームセンターに勤める楢崎(柄本時生)がジムを訪れ、瓜田に“ボクシングをやっている風”程度のトレーニングを頼む。彼は喫煙する未成年を注意して逆に殴られ、好意をよせる同僚の女性に「ボクシングをやっているから素人に手を出せない」と嘘をついて、引っ込みがつかなくなってジムにやってきた。
それでも瓜田が丁寧に応対して指導し、ジム仲間と練習を重ねるうち、いつしかボクシングに魅了されていく。
小川はタイトル戦を前に瓜田のアドバイスを受け、勝ったら千佳と結婚すると宣言し「勝っちゃっていいか」と問う。だが小川の脳機能障害は進んでいて、運転手の仕事に支障をきたしたり、日常でも物忘れが顕著になっていた。
小川のタイトル戦当日、負けが続いた瓜田にはデビュー選手との対戦が組まれ、楢崎もデビューする。瓜田の相手は元キックボクサーで彼はKO負けを喫し、楢崎もKOで負けた。
小川はKO勝ちしてチャンピオンになったが、試合後のインタビューでは呂律が回らず、回答も支離滅裂だった。
居酒屋での祝勝会で、瓜田に「負け続けるあんたのアドバイスは受けない」と絡んで、千佳が楢崎の頬を叩いた。
その帰り道、瓜田は千佳のいるそばで小川に「本当はお前が負けることを祈っていた」と打ち明け、去る瓜田に小川は深く頭を下げた。瓜田は静かに引退し、小川と千佳は結婚した。
小川の防衛戦と楢崎対瓜田が負けた元キックボクサーの試合が組まれる。瓜田は楢崎に相手ボクサーの戦略ノートを送った。小川は言う「あの人は本当に強い」と。
そして試合当日、リングを遠く眺める瓜田の姿があった。楢崎は善戦するが判定負けし、小川はレフリーストップのTKO負けでタイトルを失った。
その後の小川は、仕事で事故を起こし引退した。それでも、瓜田は働く魚市場でシャドウボクシングをし、小川も早朝トレーニングを欠かさない。負け続けの楢崎も走っている。
《感想》他愛もないきっかけでボクシングを始め、のめり込んでいった三人の男。努力しても負け続ける瓜田、才能に恵まれながら病の壁と闘う小川、女性にモテたい一心で外見だけ会得しようとする楢崎。皆ボクシングの夢を追い続けて‥‥。
ブルーとは、挑戦者が立つ青コーナー。誰もが葛藤を抱え、思うようにはならない日々にもがきながら挑戦を続ける。監督が「名もなきボクサー達の、流した涙や汗、報われなかった努力に、花束を渡すような作品」とコメントしているように、勝ち負けで測れない人間の尊厳とか、好きなことを続ける幸せとか、優しさという強さとか、そんなメッセージが見えてくる。
だが私には、千佳を巡る三角関係の方が強く響いた。
瓜田はボクシングをやめない理由を「他にやりたいものが見つからないから」と言うが、きっかけを作った想い人に見せ続けたかったのかも知れない。
瓜田と小川は心で会話する。小川が、勝ったら千佳と結婚すると宣言し「勝っちゃっていいか」と瓜田に問う。二人を応援する立場にある瓜田は、相手にせず聞き流す。
タイトル戦で勝った夜、瓜田は小川に「お前が負けることを祈っていた」と打ち明け、「分かっていた」と答えた小川は、去る瓜田に深く頭を下げた。
抑えていたものをやっと解放する男と、その溢れる思いを正面から受け止める男。昔なら高倉健と鶴田浩二のやり取りのようで、ベタだが切なく迫る。
それに比べ、男性映画のせいもあるだろうが、千佳の描き方が淡白かつ粗い印象を受けた。恋人・小川の挑戦を本気で止めようとしないし、瓜田の気持ちを知りながら知らぬ素振りで、心の揺れが見えなかった。
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