『夏時間』ユン・ダンビ

思春期少女は家族の優しさに包まれて

夏時間

《公開年》2019《制作国》韓国
《あらすじ》夏休みのある日、10代半ばの少女オクジュ(チェ・ジョンウン)は、父ビョンギ(ヤン・フンジュ)が事業に失敗したため、弟ドンジュ(パク・スンジュン)と一緒に、住んでいたアパートから祖父の広い家に引っ越した。一人暮らしの祖父のためにも夏休みを実家で過ごそうと言うが、身を寄せざるを得ない事情を抱えていた。
高齢の祖父との接し方に戸惑いながらの共同生活だったが、そこに夫と喧嘩して家を飛び出した叔母ミジョン(パク・ヒョニョン)が転がり込んでくる。父は在庫で抱えた偽ブランド靴の自動車販売をしていた。
思春期で多感な年頃のオクジュには付き合っている彼氏がいて、二重瞼に整形したいと思っている。だから商品の靴を失敬して彼氏にプレゼントしたり、手術費用捻出のために靴を売ろうとして失敗するが、父が強く叱ることはなかった。
祖父は体調が思わしくなく、息子たちに助けられながら病院通いをしていて、無口で誰とも積極的に関わろうとせず、一人静かに昔の歌謡曲を楽しそうに聴いている。
オクジュには、父と別れて自分たちを捨てた母との確執があり、無邪気に母に会いたがる弟とは諍いが絶えない。母と会ってお土産を持ち帰った弟と激しく喧嘩して祖父になだめられた。
夏休みが終わろうとする頃、父と叔母の間に、祖父を老人ホームに入れて実家を売却しようという話が起こる。何かと実家頼りだった長男の父と、それを妬んでいた妹の叔母の間にも確執があった。
その頃には、ただ穏やかな表情で静かに佇む祖父が、オクジュにとってかけがえのない存在になっていて、祖父に無断で家を売ろうとする二人に彼女は強く抗議した。
そんな怒りを抑えながら彼氏を呼び出したオクジュは、無神経で気持ちを理解しようとしない彼氏にも苛立ち、プレゼントした靴を奪って自転車で走り去った。涙ぐみながら。
帰宅すると、祖父が倒れて救急車で運ばれていた。姉弟だけの一夜を過ごして翌朝、祖父が亡くなったと知らせが入る。
葬儀の席には姉弟の母が現れる。まだ幼い弟は母を前に無邪気におどけるが、オクジュには胸にしまい込んだ複雑な思いがある。久しぶりに家族揃って食事をする中、彼女は突然激しく泣き崩れた。
そして翌朝、蚊帳の中で弟と一緒に、穏やかな表情で眠るオクジュの姿があった。エンドロールには、祖父が愛した歌謡曲が流れ、“未練”を歌う。

《感想》主人公の少女オクジュと弟は、両親は離婚、父親は事業に失敗という不運から祖父が住む父の実家に身を寄せるが、夫婦喧嘩で家を飛び出した叔母まで転がり込んできて、少し人生に疲れた大人たちとのひと夏が始まった。少女は居心地の悪さを感じながら、家族という繋がりに思いを馳せる。
一方、思春期で多感な年頃でもあるので、彼氏のことも気がかりだし、別れた母との関係も弟ほど素直になれない。そんな中、ボケ交じりだが穏やかに優しく包み込んでくれる祖父がかけがえのない存在になっていく。
そして迎える祖父の死。大切な人と死別し、離別した母と複雑な思いで再会する。人の別れとは突然訪れるもの、人の縁とは儚いもの、人生のままならなさと無常が一気に押し寄せ、少女は堰を切ったように号泣した。しかし、泣き疲れて眠り、起きたらまた元の日常に戻る。何か目に見えないものを乗り越えた少女は一歩成長した。
何気ない日常を淡々と丁寧に描き、全編温かな空気が流れている。部屋には蚊帳、足踏みミシンがあって、時折歌謡曲が流れ“未練”を歌うあたり、昭和の日本を思わせ、多くが経験したであろう幼少期の思い出と重なる。
小津安二郎、相米慎二らの影響も見え隠れするが、思春期少女の恋愛や容姿の悩みなど心の揺らぎをリアルに描くあたりには、若い女性監督らしい感性が光る。優しさが沁みた。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、映画選びのモットーは温故知新、共感第一、ジャンル無節操、です。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマと快楽を求めて、“映画バカ”をやっています。