『ルース・エドガー』ジュリアス・オナー

差別に抗う優等生の光と闇

《公開年》2019《制作国》アメリカ
《あらすじ》17歳の黒人高校生ルース・エドガー(ケルヴィン・ハリソン・Jr)は学業とスポーツ共に優れ、人柄も良く周囲から愛され信頼されていた。彼はアフリカのエリトリアからの養子として10年前、ピーター(ティム・ロス)とエイミー(ナオミ・ワッツ)のエドガー夫妻に引き取られ育てられた。
彼のスピーチが行われた日に学校を訪れた両親は、女性教師ハリエット・ウィルソン(オクタヴィア・スペンサー)を紹介されて、彼女から称賛される。
ある日、ハリエットはエイミーを学校に呼び出し、学校のレポート「歴史上の人物の代弁をせよ」という課題に、ルースが暴力を肯定する革命家フランツ・ファノンを選んだことを伝え、少年兵士であったこともあり危険な行動に走らないよう注意を促した。また、彼のロッカーから見つかったという違法な花火をエイミーに渡した。
夕食時に、両親がハリエットのことを話題にすると、ハリエットは生徒にレッテルを貼って差別し、自分のことを悲劇を乗り越えた理想の黒人のように考えているとルースは話した。その夜、ルースは花火の袋を見つける。
学校のスピーチの授業でルースとハリエットは対立する。怒ったハリエットがピーターに電話したことで、夫婦間でも口論が始まる。両親はロッカーの花火の件をルースに問い詰めるが、ロッカーは共用なので誰の物か分からないと言う。三人とも互いが信じられなくなる。
ハリエットには、精神的な病で入院中の妹ローズがいた。回復の兆しが見えるローズを仮退院させ自宅に引き取るが、再び情緒不安定になったため、彼女を病院に戻した。
エイミーはルースの女友達ステファニーに会う。彼女は過去に酔った生徒から性的暴行を受けそうになったが、ルースが守ってくれ、交際していたことや別れたことを話した。
一方学校では、ハリエットの妹ローズが校内に乱入し裸で暴れるという騒動が起きる。またハリエットの部屋の窓には、「ニガーのビッチ」という差別的落書きがされた。その直後にステファニーが訪れ「ルースの件で」と言う。
翌日、ハリエットは校長に、自宅の落書きとルースの暴行の件で相談し、ステファニーを別室に待機させて、ルースと両親を呼んで面談をする。
ルースは落書きも暴行も否定し、加えて昨夜は友人と遊んでいたというアリバイの動画を見せたため、ルースたちは帰された。その日の深夜、ハリエットのデスクで花火が燃え出し、ボヤ騒ぎが起きる。
その結果、ハリエットは休職に追いやられる。ルースは花束を持ってハリエット宅を訪れ追い返されるが、その姿を見たエイミーが尾行すると、森の中の廃屋で抱き合うルースとステファニーの姿を見つけ、二人が共謀してハリエットを失職に追い込んだものと考えた。
帰宅したルースは、少年の頃に自分がダメにした金魚をエイミーに渡し「やり直したい」と話し、エイミーは「あなたには未来がある」と言い抱き合った。
スピーチの日、ルースは両親を賛美するスピーチをして称賛された。

《感想》規律を維持することでキャリアを築いてきた黒人教師と、規律ある黒人と評価されながらそこに屈辱と反発を感じている少年がいた。
少年は「模範的な行動をとらないと黒人が差別されてしまうなら、それは平等な社会ではない」と言う。教師も少年も共に“模範的な黒人”となるべき重荷を背負わされていた。
そこで、生徒にレッテルを貼って差別を助長させる管理側の教師に対し、少年は優等生の顔を保ちながら対立を深めていく。だが、少年が何を目的に、何をしようとしていたのか、表立っては描かれない。
そこには疑惑だけが残るが、疑惑だけで断罪しようとする教師の正義はやがて壊されてしまう。そして、教師との闘いに勝利したものの、少年の裏の顔を承知しながら胸にしまう決断をした養母に、少年は「やり直そう」と思う。
スピーチではアメリカ人として生きる喜びを語るが、その裏には故郷も名前も捨てなければならなかった屈辱が隠されているのだろう。ラスト、苦悩に満ちた表情でジョギングする姿には、その屈辱を抱えながら闘い続ける決意が見えた。
登場人物の誰もが、実は裏の顔がありそうなキャラで、人間の二面性が見え隠れする。虚実ない交ぜで真実を明かさないため釈然としないが、それも深みに感じられる、巧みに構成された心理サスペンスである。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマを求めて、“映画の旅”を楽しんでいます。