『ザ・ライダー』クロエ・ジャオ 

夢を絶たれた若者の苦悩と再起を描く

ザ・ライダー

《公開年》2017《制作国》アメリカ
《あらすじ》アメリカ中西部のサウスダコタ。カウボーイのブレイディ(ブレイディ・ジャンドロー)は、ロデオの落馬事故で頭蓋骨骨折の大けがを負ったが、病院を抜け出し自宅に戻った。
ブレイディは父親のティム(ティム・ジャンドロー)と自閉症の妹リリー(リリー・ジャンドロー)との三人暮らし。ロデオ界で期待される存在だったが、選手生命に関わる事故に遭い、今後はロデオ大会に出ないよう父から言われている。
一方仲間たちは、馬に乗ることを怖がってはだめだと言い、復帰に向けて励ます。しかし、傷口は良くなったものの、右手が思うように動かない後遺症に困惑している。
その不安を抱えたまま、ブレイディはレイン(レイン・スコット)の見舞いに訪れた。レインはかつて名を馳せたブルライダーだったが、落馬事故で半身不随になって言葉も失い、施設でリハビリを続けている。
ブレイディが帰宅すると、トレイラーの代金取立ての業者がやってきて、苦しい家計状況を察した彼はスーパーのバイトを始める。しかし父は、生活のためにブレイディの馬のガスを売ろうと考えていて、ブレイディはしぶしぶそれを了承した。
そんな時に、暴れ馬だからと安く売りに出たアポロという馬に出会う。貯えの少ないブレイディは、愛用の鞍を売ろうとして思いとどまり、その姿を見た父親が話をつけて馬を引き取ることになる。アポロの調教にのめり込み、乗りこなしに成功したブレイディは、本格的に調教の仕事を始め才能を発揮するが、不自由な右手が災いすることもあった。
ある時、ブレイディはアポロに騎乗中に嘔吐して意識を失い、目覚めると病院だった。乗馬をやめ安静にするよう言われながら、馬に乗り続けたことが原因で、医者から乗馬禁止、絶対安静を改めて告げられる。
そんな中、ブレイディはレインのリハビリに付き合い、笑顔を交えながらリハビリを支えたが、その帰り道、涙が止まらなくなった。
ある日、アポロが柵を超えて姿が見えず、心配して探し続け足を怪我して動けないアポロを見つける。ブレイディは、もう助からないから安楽死させようとするが引き金が引けず、代わりに父親が引いた。「俺もアポロと同じ。馬は大怪我をすると安楽死だが、人間は生き続けるしかない」と思う。
父親の反対を押し切り、ブレイディは再びロデオ会場に向かったが、右手の不安は隠せない。すると応援に駆け付けた父親とリリーの姿を目にする。本番直前だったがブレイディは、仲間に「頑張れよ」と声を掛けて、父とリリーの元へ向かった。
その後、レインに会いに行ったブレイディは、レインから「夢を諦めるな」というメッセージを貰い、馬で草原を走る姿を思い描き胸躍らせるのだった。

《感想》大怪我を負った若いカウボーイは、人生を賭けて挑んだロデオの道を断たれ、夢を絶たれた苦悩のうちに、これからいかに生きるか逡巡する。
夢は希望にも絶望にもつながる。絶望の淵から救ってくれたのは家族の愛と、落馬事故で身体と言葉に障害を負った友人の優しさだった。
全編がドキュメンタリー風、大半が本人キャストという点では、後の『ノマドランド』と同様で、リアルな空気感と大自然の映像が素晴らしい。
過剰な演出を避け、主人公の気持ちに寄り添うことで、その微妙な表情や仕草から感情が伝わってくる。繊細で静謐な世界である。
ラストシーンには少し困惑し解釈に迷い、やがて腑に落ちた。
ロデオ大会の本番直前になってキャンセルし、その道を諦めたかに見えたが、重度障害の仲間から「夢を諦めるな」というメッセージを貰って、乗馬する姿を思い描く。さて、主人公はこれからどう生きるのか。
夢は夢、現実は現実。夢破れたとしても人は生き続けなければならない。しかし夢を諦めることはない。夢を持ち続け、現実を生きよ。生き続ける中で“もしかしたら”希望につながるかも知れない。そんな風に解した。
感動の余韻がいつまでも残る映画だった。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマを求めて、“映画の旅”を楽しんでいます。